アパートの上の階の家族が引っ越して行った

●アパートの上の階の家族が引っ越して行った。ぼくの住んでいるアパートは(アトリエとして使うため)単身者向けのものよりやや広く、しかし家族向けとしては狭く(しかも古く)、だから、若くてまだ子供が小さい(そしてあまりお金のなさそうな)家族が何世帯か住んでいる。初めて部屋を見に来た時、真上の階のベランダに子供用の衣料が雑然と干されているのを見て、これはかなりの騒音を覚悟しなくてはいけないな、と思ったのだが、案の定、上の階のガキは、木造アパートなのに遠慮なしでバタバタ走るは、ひっりなしに奇声をあげるはで、慣れるまでは相当イライラした。アパートの前に大きくスペースが空いていて、それはとても気持ちいいのだが、ここが子供たちの遊び場になっていて、上の階の子供二人と、隣の部屋の子供二人が、いつも、ちょうどぼくの部屋の目の前あたりで大声を出しつつ走り回って遊んでいるのだった。上の階の下の子供が、ぼくが部屋のドアを開けたらすぐそのまん前で、(何故か)下半身裸のまましゃがみ込んで遊んでいたこともあった。(一瞬、人の部屋の玄関の前で「うんこ」しているかと思ってビビった。このガキは割といつも裸に近い格好をしている。)まあ、そんなこんなも慣れてしまえばどうということもなく、喧噪に満ちた貧乏長屋もそれほど悪くはない。(とは言っても、出来れば静かな方がいいのだけど。)上の階の上の女の子は、相当に泣き虫で甘えたがりで、朝起きてから夜寝るまでの間じゅう何度も、おかおさーん、と泣き叫んでいていた。それも、そんな体力はどこにあるのだというくらいに、全身を使って大きな声を張り上げて(ごく些細なことで何度も何度も)泣くのだった。しかし子供はみるみる成長すると言うのか、「役割」が人をつくると言うのか、下の子供が生まれて「お姉さん」になってからは、その泣き声を聞くことが極端に少なくなったのだった。だけど、あれだけ(ある意味では気持ち良さそうなくらい)思いっきり泣いていたのが急に泣かなくなるというのは、どこかに相当のストレスを溜め込んでしまっているのではないかとも思う。余計なお世話だけど。ともあれ、上の階の家族が引っ越して出て行ったので、天井から響く、低いドドドドッという音からは(一時的に)解放されたのだった。では、それで静かになったかと言えばそんなこともなくて、隣の部屋の上の男の子がまた相当な悪ガキで、部屋のなかでガンガン暴れ回る音と、母親の金切り声が聞こえてくるのは、しょっちゅうなのだった。