ついつい、凝視してしまう

●ついつい、凝視してしまう。ぼくは、視覚的に面白いものや興味深いものに、気が付くと、つい目が釘付けにされ、凝視してしまっているという悪い癖がある。勿論ぼくにも、行きずりの見ず知らずの他人や、その持ち物などを、じっと見つめてしまうことが失礼なことだというくらいの常識はあって、意識がしっかりしている時は、そんなことはしないように気をつけているし、どうしても見たい時には、こちらの視線に気付かれないように、横目でチラチラ見るというくらいにしておくという程度の遠慮はあるのだが、疲れていたり、ぼーっとしていたりして気が緩んでいる時は、ふと気が付くと、何かをじっと凝視してしまっている、ということがしばしばある。今日も、電車のなかで(重い荷物もあったし、かなり疲労していた)、今時あまり見ないような、黒くて分厚くて大きい、立派なフレームの、まるで昔の小説家みたいな眼鏡をかけているオッサンがいて、その眼鏡の立派な作りに、その細部に惹き付けられて、思わずじっくりと凝視してしまっていて、そのオッサンから、不審そうに睨み返されしまい、あわてて目を背けたのったのだった。(「昔の小説家みたいな眼鏡のフレーム」と書いたけど、今、ぼくは、今日、電車のなかで見かけたオッサンと同じようなフレームの眼鏡をかけた、かなり鮮明なある男のポートレイト写真のイメージが頭に浮かんでいるのだが、それが誰だか、思い出せないのだった。「昔の小説家」と書いたのは、その男の姿形が、昔風であるように思えることと、そのイメージが、まるで小説家のようだ、という印象をぼくに与えているからで、その男が必ずしも本当に小説家であるとは限らないのだった。と、ここまで書いて、いきなり思い出したのだが、ぼくがイメージしているポートレイトの男は、記憶違いでなければ、おそらく、ぼくが中学生くらいの時期の、バレーボールの、全日本女子チームの監督だった、確か「小島監督」という人のポートレイトなのだと思う。この記憶は、かなりあやふやで確信はなく、怪しいものではあるのだけど。)