●今度のドローイングの展示の案内状を、とりあず宛先を書き終えた分だけポストに入れるために部屋を出て、そのついでに駅前の喫茶店でコーヒーを飲みながら本を読んでいた。座った席が、いつも座るのとは別の道に面した窓際で、二階にあるその喫茶店の窓から表をぼんやり眺めていて、道を挟んで向かいに建つ、文房具屋の三階建てのビルの屋上と、その(細い路地を挟んだ)隣の、一階のテナントがちょくちょくと変わるビルの屋上とが、橋のようなもので繋がっているのを発見した。ただそれだけのことなのだが、このビルは両方とも、ぼくがこの辺りに越してきた89年には既にあって、当時から文房具屋のビルはずっと文房具屋(一、二階が店で三階が倉庫)で、その隣のビルは、二階が耳鼻科の医院で、一階のテナントは何だったのか忘れたけど、それから何度もめまぐるしく変わった貸店舗で、三階はカーテンが閉まっていて何なのか謎で、さらに言えば、ぼくがコーヒーを飲んでいる喫茶店もその当時からあって、イスやテーブルのレイアウトもかわっていないのだが、しかしその屋上の通路には今日はじめて気づいたのだった。
コーヒーを運んできてくれた(おそらくこの辺の大学に通う学生だと思うけど)女の子は、この喫茶店のレイアウトが17年も前とほとんとほ変わっていないことになど知りもしなければ興味もないだろうし(この喫茶店はチェーン店なので、もしかすると当時働いていた人はもう誰も残っていないのかもしれない)、ぼくがはじめてこの喫茶店に来た時はこの女の子とあまりかわらない年齢だったはずだけど、その時のぼくも、この喫茶店や向かいのビルがどれくらい前からあるかなど興味もなくて、ただ、ずっと前からそのまま、当たり前のようにそこにあったのだろうと思い込んでいて、そしてその後17年たってもそのままあって、そのままあるのが当然のように今も思っているけど、しかし、この駅の周辺を見回せば、17年前からかわりなくあるものの方がむしろ稀なのだということに気づき(踏切を挟んだ向こう側にあった文房具屋の支店も今はなくなって進学塾になっているし)、そう考えればこの喫茶店がなくなってたとしてもちっとも不思議ではなくて、にも関わらずずっとあるかのようにあって、それがとても不思議な感じだ。