●夜、出先からの帰り、買い物を終えてアパートの部屋に向かってゆるやかな坂道をのぼっていた。両側に住宅が建ち並ぶ人通りの無い静かな狭い道で、車庫の前にさしかかる。街灯は、車の頭の部分だけを照らしていて、車庫の奥は暗くて見えない。奥の方から、チャリッと、微かに金属の音が聞こえた。つづいてその音は、チャリッ、チャリッと重なり、金属の音は鎖を引きずるような音として像を結ぶ。そして、喉を鳴らすような音。闇のなかで何かが動く気配。一匹の大型犬が暗闇のなかからぬっと顔を出し、威嚇するようにこちらを見て唸っていた。目が合った。