●廣木隆一『やわらかい生活』、テリー・ギリアム『ローズ・イン・タイドランド』をDVDで観た。
●『やわらかい生活』は、さらっと観ると「さすが」という感じ。面白いとか、刺激的だということは全くないのだけど、やっていることがいちいち決まっているのが気持ちいいというか。掴みのエピソードの上手さとか、あるいは、寺島しのぶの顔に何もそこまで近づかなくても、というくらいに手持ちの不安定な感じのカメラが顔に寄るショットのあとに、パッとカメラが引くと、凄くピタッと決まったポジションに落ち着く、とか、あくまでサラッと、淡々と話を進めつつ、主人公に関する情報を小出しにパラパラと開示して、少しずつ気付かないうちに観客を深みにハメてゆく話法、とか。あと、ぼくは決して好きではないけど、やはり寺島しのぶは「さすが」だとは思う。テレビのバラエティとかに出ている時とは、全然違った顔に見えてしまうから不思議だ。いかにも「世を捨てた人」っぽい歩き方とか、豊川悦司とカラオケに行くシーンで、唐突にはしゃぎ出すそのタイミングとか、あるいは鬱に入った時の「ぐんにゃり」とした力の抜け方とか。(もっと熱演しちゃう人なのかと思ってたけど、割とそうでもなかった。)
ただ、サラッと観ている分には「さすが」な感じなのだけど、ちょっと突っ込んで考えると、いろんなところで作り込みの「浅さ」のようなものを感じてしまう。例えば点景的に出て来る男たち、痴漢や区議会議院やヤクザは、最初に出て来る時は、まあまあ面白いと納得して観ているのだけど、二度目に出て来る時はもう既に、どうしてもそのキャラクターの「つくり」の薄っぺらさが感じられてしまう。(ぼくは原作の『イッツ・オンリー・トーク』を読んでいないので、この「浅さ」が原作に由来するものなのか、この映画によるものなのか分らないけど。)あと、豊川悦司は、背も高いし、手足もすらっと長くて、つまり少しくらいだらしない感じにつくっても、普通に格好良過ぎて、家出してきたダメな四十男の役はちょっと無理がある気がする。あと、終盤になって話を収束させようとし過ぎていて、凄く説明的な感じになってしまう。痴漢のおっさんと踏切のところで出会ったり、区議会議院の隣りに女がいたりするのを、最後の方でまとめてやってしまうから、いかにもお話を収束へと向かわせようとしているんだなあ、というのがミエミエになってしまっている。もうひとつ、これは「ネタバレ」になってしまうけど、ちょっと納得がいかなかったので書いてしまうけど、何故、最後のところで唐突に豊川悦司を死なせなければならなかったのかが分らない。これこそ、ラストシーンを成立させるためだけのご都合主義以外のなにものでもないのではないだろうか。(でも、別に豊川悦司が死ななくてもあのシーンは成り立つと思うけど。)最初にぐっと掴まれて、中盤過ぎまで少しずつ引き込まれてゆき、最後にシラーッとなってしまうような感じだった。
●『ローズ・イン・タイドランド』。すげーバカな映画。テリー・ギリアムがいかにロクな者じゃないかがよくわかる。でも、不思議と嫌いではないから困ってしまう。いや、終盤はいくらなんでもグスグス過ぎなので好きとは言えないけど、途中までは結構楽しめてしまう。(アリスっていうより『秘密の花園』みたいな話だ。)嫌いになれないのは、ぼくが小学校に上がる前くらいの年齢の頃、まさにこの主人公の女の子みたいな子供だったからで、映画を観ながら、忘れていたいろいろなプチ・エピソードを思い出してしまったくらいだ。あと、この女の子と、隣りに住む癲癇持ちの男の子(?)との会話が全然成り立ってなくて、その成り立たなさと、にも関わらず互いに何となく通じ合っている感じに、子供の頃の友達との会話ってこんな感じだよなあ、という変なリアルさがあって、だからこんな「最低の映画」が嫌いになれないのだった。