散歩

●午後になってビデオを返すために外へ出たら、光がとても澄んでいて、空気の感触がさらさらして気持ちよかったので、ビデオはさっさと返して、気になる新作も出ていたけど借りずに手ぶらで店を出て、方向も定めずに歩き出した。風がかなり強いけど、そのおかげで適度に乾いた空気が常に身体にあたってくるのが感じられ、それが心地よい。風が身体にあたっているというだけのことがひたすら気持ちがよいなんていう日は、そうはない。それに、風が強いせいで、歩いている間じゅうほとんど常に、木々の葉がゆらゆら揺れる動きが視界のどこかにあり、葉が擦れる音がずっと聴こえつづけていた。
散歩する面白さは方向を失うことにあって、目的地も道順もなく、ただ、こっちへ行くと面白そうだという自分の嗅覚だけを頼りに進んで意外な場所に突き当たるのがよいのだけど、でも、それが近所であれば、だいたい地形も方角も頭にはいっているので、なかなか「方向を失う」ところまではいかない。でも稀に、死角のように今まで気付かなかった小道をみつけ、それをきっかけにどんどん知らない道へと進んでゆき、住んでるところからせいぜい歩いて一、二時間くらいの場所なのに、まるで未知の場所に迷い込んだ感じになることがある。おそらく地図で確認すれば、がっかりするくらいに「近い場所」なのだろうけど、ランダムに歩いてたどり着いた場所は、地図上のなだらかに繋がっている空間とは違う接続の仕方で繋がっているのだ。
今日は運良く、いつも使っている近所のビデオ屋の近くに、今まで一度も通ったことのない道をみつけて、それをきっかけにどんどん知らない道を通って、まったく未知の領域にまでたどり着くことが出来た。歩いて二時間くらいのところに、こんな一帯があったのかと驚き、しかも完全に方角も分らなくなっていて、帰りは来た道を戻るしかなかった。(出来れば散歩の時は、来た道を戻ることはしたくない。そうすると「行き」と「帰り」が出来てしまうから。でも本当に迷ってしまったので仕方なかった。)歩いている間は時計は見ていないのだけど、午後の澄んだ光りに、わずかに夕方っぽい暖色の濁りが混じったのを感じたところで、引き返すことにした。部屋に戻ったのは六時前で、だいたい四時間弱くらい歩いていたことになる。ただ、ビデオを返すだけのつもりで部屋を出たのだったけど。
●今日の散歩(07/05/11)http://www008.upp.so-net.ne.jp/wildlife/sanpo070511.html