『マリアのお雪』(溝口健二)

●『マリアのお雪』(溝口健二)をビデオで。これは無茶苦茶に面白い。実写映画のリアリズムと新派の芝居とが混じり合わないままに平気で同居している。(それに、西部劇や、おそらく表現主義の影響なんかも加わっている。)映画というメディアの特性によって新派の芝居が解体され、その背後から、実写映画が本質的にもっているリアリズムがむくむくっと立ち上がってくる。ここで溝口は、映画によって過不足無く物語りを語ることからも、映画を作品として形式的に洗練させることからも逸脱しまくっていて、そのため、映画の様々な潜在的な可能性が、剥き身のままごろごろころがっている感じだ。(この映画の翌年にはもう『浪速悲歌』と『祗園の姉妹』がつくられている。トーキー映画としての作品の完成度の急速な高まりは驚くべきものだが、しかし、それによって切り捨てられてしまった可能性が決して少なくないということも、『マリアのお雪』を観ると感じられる。)