●雪の日。
あなた方が窓の外を見たにしろ、見なかったにしろ、その時、窓から見える中庭に立つ大きなけやきの木の葉たちが強い風に吹かれてざわざわと揺れ、葉擦れの音をたてていた。あなた方は、もしその音を聞いたとしたら、外を見ずにはいられなかった。だからきっと、あなた方は窓を見た。窓の方を振り返った。だが、窓の方を見たとしても、窓の外までは見なかったかもしれない。
窓の外を見れば当然目に入るはずのけやきの木に隠れたその向こう側にある建物の一階部分は前面がガラス張りになっている。だから出入口もガラス戸で、そのガラス戸には鈴がついていて、開くとちりんと鳴って、人が来たことを告げる。ギャラリーのスタッフは普段、奥のオフィスにいるからだ。そこはギャラリーだった。
あなた方の部屋は二階にある。その窓にはめ込まれているガラスと、ギャラリーのガラス戸のガラスとは同じガラスだった。温度差によって曇ったガラスの表面を手で擦ったので、あなた方は必然的に窓の外を見ることになる。雪が降っている。ここまでくると、あなた方は完全に起きていると言わざるを得ない。ベッドの上にいるはずはない。夜型であるあなた方にとって、それは早起きだと言えるはずだ。とはいえ、あなた方はわたしを起こしに来たりはしない。だからわたしはきっと、まだ眠っているだろう。てのひらは依然としてガラスにくっついたままだった。その冷たさをあなた方は感じている。もし、そのままぐっと力を込めて押すとすれば、ちりんと音が鳴って、あなた方はギャラリーのなかにいるということになる。あなた方が消え、見る人が誰もいなくなった部屋でも、窓からは雪を被ったけやきの裸木が見えている。