●人前で話をするのは難しい。多少なりともややこしい話をするときは、最初に全体の見通しをざっと示しておくとかしないと、この話が一体どこに向かっているのか分からなくて、聞いている方は混乱してしまうのかもしれない。あと、文章を書くときは、書き始めて、ちょっとこれだと上手く流れないと思えば、仕切り直してやり直すことが出来るけど、話は、いったんスタートしてしまうと途中で止めることが出来ないので、ちょっとどうかと思っても、そこからの修正が難しい。もう一回やり直しさせてくれれば、もうちょっとは上手く出来るのではないか、みたいな不完全燃焼感が残ってしまった。
あと、九十分ずっと一人で喋っていると、最後の方では声が枯れてくる。これを一日何コマもやる大学の先生はすごいな、と。
●人間と人工知能の違い。例えば、ある職人が三十年の修行の結果に獲得した「技術」があるとして、それを伝承しようとすれば、その伝承者をまた三十年かけて教育しなければならない。一方、人工知能は、あるアルゴリズムを、苦労に苦労を重ねて開発して、三十年かけてようやく完成したとしても、それは、完成されたその瞬間に、いくらでも無限にコピー可能になる。この違いに戦慄を覚えないでいるのはむつかしい。
人間の世界では、一人の天才があらわれたくらいでは、そうそう世界は変わらない。天才ではない人にとって、天才の考えを真に理解することは容易ではないから。だから、天才の考えは、五十年、百年かけて、じわじわと人々に浸透してゆくだろう。世界はゆっくり変化する。しかし、人工知能の世界では、一つの革命的アルゴリズムがあらわれると、それは、現れた瞬間に「標準装備」に近いものになる。つまり、天才があらわれた瞬間に、多くの者がその天才と並列化可能になり、その瞬間に全体の底上げが起ってしまう。天才は、あらわれた途端に平均になる。たった一度の奇跡でも、起きてしまえば、それはもう起きて当然の普通のことになる。風景(配置)は一瞬にしてかわる。
こんな世界に、人間がついてゆけというのは無理がある。しかし、世界は既に、そういうものになってしまって、我々は人間の時間と機械の時間とのとてつもないギャップのなかに生きている。