●『限界費用ゼロ社会』(ジェレミー・リフキン)という本が気になって買ってみた。以下、「内容紹介」からの引用。
《IoTはコミュニケーション、エネルギー、輸送の〈インテリジェント・インフラ〉を形成し、効率性や生産性を極限まで高める。それによりモノやサービスを1つ追加で生み出すコスト(限界費用)は限りなくゼロに近づき、将来モノやサービスは無料になり、企業の利益は消失して、資本主義は衰退を免れないという。
代わりに台頭してくるのが、共有型(シェアリング・)経済(エコノミー)だ。人々が協働でモノやサービスを生産し、共有し、管理する新しい社会が21世紀に実現する。》
(注:ここで言われる「限界費用」とは、製品の生産を一単位だけ増やした時に、総生産費がどれだけ増加するのかという数値。「限界費用ゼロ」とは、生産数をいくら増やしても、それによって総生産費がまったく増えない、増産コストがゼロという状態。例えばデジタル情報は、いったんつくってしまえばコピーするのにほぼコストがかからない。
また、「IoT」は「Internet of Things(モノのインターネット)」の略。様々なモノに通信機能をもたせてインターネットに繋ぎ、自動制御、遠隔操作、リアルタイムデータ集計などを行うことを可能にすること。この本では、インターネットを通じた、通信・エネルギー、物流、の大幅な効率化を意味しているようだ。)
●読み始めたばかりで深い内容まではまだわからないけど、素朴に考えて、仮に生産性の大幅な向上によって技術的な生産物の希少性が限りなくゼロに近づいたとしても、技術的な生産がその上にのっかっている、技術的には生産出来ないモノ(土地や資源、あるいは優秀な人材)の希少性は依然として残ると思われるから、やはり商品は無料にはならないのではないかという疑問が生じる。例えば、IT技術に必須であるレアメタルのような資源を、IT技術そのもの――3Dプリンターなど――によって生産することはできないだろう。つまり、技術的な生産性の向上によってでは「希少性」というものの価値を完全に消すことはできなくて、「希少性」は、限りなく目減りしつつも、何らかの形で生き残ってしまうのではないか。希少性が価値として生き残る以上、希少なものをめぐる「競争」が消えることはないのではないか。
だとすれば、多くの生産物の希少性の低下(限界費用ゼロ化)は、多くの人の職(というか収入)を奪うだけで、結局は、資本家や資源保有者(例えば、すごく「いい頭」を持っている人、ということも含めて)は引き続き勝ち続け、資本主義は衰退しながらも生き続け、格差はますます広がるばかりということになってしまうのではないか、と。つまり、多くの人やモノから「(希少)価値」が失われ、ごくごく一部の、きわめて希少な人やモノの「(希少)価値」ばかりが爆発的に増してしまうということになるのではないか。
●これはまだちょっとしか読んでいない時点での「内容紹介」についての感想で、まあ、こんな単純な話ではないだろうし、そうならないための「シェアリング・エコノミー」というヴィジョンなのだろうし、それを可能にするのがIoTということなのだろうけど。というか、そのヴィジョンが具体的にどういうものなのかが気になって買ってしまったのだった。
●渡部亮という人による書評。
http://www.jsri.or.jp/publish/research/pdf/89/89_10.pdf
●この本の最後の章に当たる、日本語版のために追加された「特別章」の部分だけがウェブで読めるようになっている。「日本は原発とか化石燃料に頼ってないではやくスマートグリッド方向に移行しないと第三次産業革命の流れから遅れちゃうよ」、という感じの内容。成程と思うと同時に、ちょっと「上手い話」にし過ぎていないだろうかという疑念も感じる。
http://toyokeizai.net/articles/-/89717
以下、引用。
《ドイツを動かしている電力は、2025年には、その45パーセントが太陽光と風力のエネルギーから生み出され、2035年には6割が再生可能エネルギーによって生産され、2050年にはその数字は8割に達する見通しだ。言い換えれば、ドイツは、財とサービスの生産・流通における電力生産の限界費用がしだいにほぼゼロに近づく、スマートでグリーンなデジタル経済への道を順調に進んでおり、生産性は劇的に上がり、限界費用は減少し、グローバル経済での競争で優位に立てるだろう。一方日本は、中央集中型でますますコストのかかる原子力化石燃料のエネルギー体制におおむね執着しているので、日本企業は国際舞台での競争力を失う一方だ。》
《皮肉にも、日本の主要産業の多くは、IoTインフラの導入を切望している。IoTインフラは新たなビジネスモデルやビジネス手法を助長し、利益を生み、膨大な新規雇用機会を創出しうるからだ。ところが、これらの産業は電力業界に手足を縛られている。電力業界は、古い原子力発電所をなんとしても再稼働させ、日本を輸入化石燃料に依存させ続ける気でいる。だが、日本の電気通信企業や情報通信テクノロジー企業、家庭用電化製品メイカー、輸送・物流企業、製造業者、生命科学企業、建設・不動産業界、小売部門、金融業界などは、これまで語られなかった、新しいデジタル経済パラダイムへの移行に伴うチャンスを理解し始めている。》
《日本は、ユニバーサル・サービスの超高速ブロードバンド接続でコミュニケーション・インターネットの性能を高める点では、すでに飛び抜けており、IoTプラットフォームにおけるビッグデータの流れと処理の総効率を上げることが可能になっている。そして日本は今、毎秒10ギガビットのインターネット速度を家庭と企業に導入する計画を立て、ブロードバンド接続を次なる段階に導こうとしている。このコミュニケーション・チャンネルが実現すれば、現在アメリカに存在するものの数百倍の速さを持つことになる。シスコ社に言わせれば、「この高速接続は重要だ。なぜなら、IoE(万物のインターネット)の普及が速まり、日本は他の国々よりも迅速にその恩恵にあずかることが可能になるからだ」。》
《日本は独特の地理的利点にも恵まれており、そのおかげで、より迅速に再生可能エネルギー・インターネットへと移行することができる。日本の一般大衆にとってさえ意外かもしれないが、日本は先進工業国のうちで再生可能エネルギー源(太陽光、風、地熱)を最も豊富に有している。ロッキーマウンテン研究所の共同創立者でチーフ・サイエンティストのエイモリー・B・ロビンスが指摘しているように、日本はドイツの9倍の再生可能エネルギー資源を持っていながら、そうしたエネルギー源による発電量はドイツの9分の1しかない。たとえば、「日本はドイツと比べて、国土は5パーセント、人口は68パーセント、GDPは74パーセント多く、太陽光や風もはるかに豊富だが、2014年2月までに増やした太陽光発電量はドイツのおよそ5分の1にすぎず、風力の利用の増加はないに等しい」。》