●昨日は、新宿K's cinemaで『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』の上映後のトークに出た。それで、トーク前にこの映画をはじめて劇場で観た。この映画については、DVDで既に三回くらい観ているのだけど、劇場のスクリーンで観たら、ええっ、こんな映画だっけと驚くくらい印象が違った。
当たり前だけど、劇場の大きなスクリーンでは細かいところまでよく見える。要するにイメージの精度が上がる。画面の手前側で風に揺れている黄色い花に蝶がとまっているのも見えるし、ロングショットでも人物の動きがよく分かるし、ヒロインの化粧の濃さも分かる。登場人物一人一人の動き方の違いもよく分かる。川原の草の穂先の尖りも感じられる。このことは、ゆるく穏やかに流れると思っていた映画に、感覚の強烈さを加味する。思いの外、けっこうパンチを撃ってくる映画だな、と。
さらに、音の印象がDVDで観ている時と大きく違っていた。ノイズを意識的に拾って、それを利用しているのはDVDでも分かっていたのだけど、DVDでは、世界の底から響く微かな歪みのようだったノイズが、劇場で観ると、体にびりびり響いて、こちらを圧してくるくらいの強さとして感じられた。そしてこの音の強さは、特にこの映画の後半の印象をかなり変えた。怪しいものや危険なものが身近に徘徊していながらも、それを上手いことかわして、基本的には、大きな波乱のない世界で仲間たちと呑気に酒を飲んでいるような映画なのだけど、それでも、後半から終盤にかけて小さな波乱や、ちょっとした乱暴が描かれる、というのがDVDで観た印象だ。しかし劇場での印象は、この部分が思いの外、荒れた、激しい、凶暴なものとして感じられた。
伊藤さんという荒ぶる存在が登場して、主人公の中西にいろいろちょっかいを出してくる。それがちょっと洒落にならないところまで発展して、それに対し中西や彼の保護者ともいえる古賀さんが怒り、中西は伊藤さんを殴り、古賀さんは伊藤さんに強い口調で退場を促す。DVDで観た時には、この過程はあくまでコミカルに展開され、傑作と言える「伊藤さん」というキャラの不機嫌さもまた、あくまでコミカルなものとして造形されているように感じられた。
しかし、劇場での印象は、伊藤さんの凶暴さが、より強く、かなり禍々しいものとして感じられた。それに伴い、中西の伊藤さんに対する怒りの生々しさ、かつて伊藤さんの仲間だったという古賀さんの伊藤さんに対する感情の複雑さ、なども、何割も増して強いものとして感じた。こんなに荒くて激しい映画だったのか、と(勿論、基本としてコミカルではあるのだけど)。
他にも、絢という人物の不安定で危うい感じ、近藤さんという人物のこの世のものではないような異世界感、そして、中西と絢の関係の濃密さ、など、この映画を構成する様々な要素が、DVDで観た時よりもかなり「色の濃い」感じ(色自体もコントラストも)で迫ってくるのだった。
観た後に黒川監督に聞いたところ、この上映では、通常の上映の音のレベルからすると、二段階くらい大きな音を出しているということだった。つまり、監督の意図によって、意識的に準-爆音上映のような形にしてあるという(この選択について、監督にはまだ迷いがあるようだったけど、とりあえず今回の上映は、この方針で最後までゆくつもりだ、と)。
さらに、上映を観に来ていた七里圭さんの話によると、K's cinemaはミニシアターとしてはとても音響設備がよくて、音が「裸にされる」ような感じでくっきりとよく聴こえる(聴こえてしまう)劇場なのだという。
つまり、音が大きく、細かいところまでよく聴こえるというだけで、映画の印象が大きく変わるということだろう。これは、ぼくだけが感じたことではなく、既にDVDで観ていて、上映を見に来ていた鎮西尚一さんや田村千穂さんも、同様のことを感じていたようだった。
トークでは、「映画好き」の人っぽい話は、他のゲストがきっとすると思うので、そうではなく、うんと理屈っぽい話をしようかとも考えていたのだけど、DVDとの印象に違いに驚いて、結局は、あの場面がすごかった、この場面がよかったみたいな、きわめて素朴な話になってしまったように思う。
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