●SCI THE BATHHOUSEのアニッシュ・カプーア、すごく良かった。
カプーアはすごくメジャーな作家だから、巨大プロジェクトみたいなこともいろいろするけど(そういうものは写真でしか知らないけど)、この展示では、シンプルでコンパクトなものに絞られていることで、作品のエッセンスと、その精度の高さが、明快に示されているように思った。
(建築模型は、なくてもよかったのではないか、と。)
http://www.scaithebathhouse.com/ja/exhibitions/2016/08/anish_kapoor_solo_exhibition/
カプーアの今回展示されている作品で面白いのは、世界をトポロジカルにひっくり返す感覚、あるいは、ひっくり返すために世界に穴をあけるという感覚があるところだと思う。そしてその感じが、巨大な装置ではなく、比較的小さなオブジェクトにコンパクトに折り畳まれているところも面白い。池田剛介さんが「共生ノート」で書いていた赤瀬川原平の「宇宙の罐詰」はコンセブチュアルなものだけど、あの感じを知覚的に実現しようとしている。
ピカピカに磨かれたステンレスの鏡面は、内と外が裏返された世界の皮膚の裏面であり、裏返されることで世界を包み込んだ皮膚は、裏返されて(こちらからみると)表となったその裏-鏡面に、自身が内包する世界を映しだしている。世界全体を包み込むコンパクトな皮膚であるその鏡面=オブジェクトは、自分自身(オブジェ自身)の限定された形に従って、世界を変形させて映し出す。観客が観るのは、オブジェクトの形というより、その独自の「世界の歪ませ方」であり、その皮膚の内側にあるものとして意識された「ここ」であり「わたし」であるように思う。捉え難い形をとらえようと、オブジェクトを様々な方向から眺める時、そこに映し込まれる「ここ」や「わたし」もまた、その都度位置を変え形を変えるのを同時に見ることになり、そのうちに、「ここ」や「わたし」が、その表面上にこそあって、ここのわたしの方が、その反映であるようにも感じられる。
カプーアの作品の形は、いわゆる美術作品としての「良い形」ではなくて、この世界そのものを(裏側から)コンパクトに折り畳む、その畳み方のバリエーションをあらわしているように感じた。
●用事があったので、上野まで行ったのにカプーアだけ観てとんぼ返り。