●働きアリのうちの二割はほとんど働かない。よく働くアリだけを選んでコロニーをつくっても、そのうち二割は働かなくなる。この話はよく聞くけど、あまりに良くできた話であり過ぎて(ある種の社会的な教訓話みたいなものに「使え過ぎる」話なので)、一種の都市伝説のようなものなのではないかと疑っていたのだけど、どうやら本当であるようだ(「サイエンスゼロ」でやっていた)。しかも、まったく同じ遺伝子をもつクローンアリだけでつくったコロニーでも、働くアリと働かないアリとに分かれるということだった。
たとえば、鳥の群れの動きなども、複雑にみえて、案外単純な原理とパラメーター設定で再現できてしまったりするという話なので、この「二割働かなくなる原理」も、相互予期に関するけっこう単純なプログラムとかでシミュレーション可能だったりしないのだろうか。それは、アリのもっている神経系で走らせることができる程度に単純なプログラムであるはずだから。
不思議なのは、そのようなプログラムがあったとして、それが、進化の過程で自然のなかから生まれてくるという事実の方だ(「二割のアリが働かないコロニーの永続性が高い」という事実は、「二割のアリが働かないコロニーを実現するための何かしらのプログラム」が自然から創発され、そして、そのプログラムを組み込んだアリが事実として---99.9パーセントの生物種が絶滅したこの世界で---現在まで生き延びた、ということによって導かれる)。それは、アリが考え出したわけではなく、アリとアリの生きている環境との相互作用が考え出した、と言うべきものだろう。考えた、というと主体性が出てきてしまうので、アリとアリの生きる環境が組み合わされることで計算された、ということか。それはつまり、アリとアリの生きる環境の相互作用が、一つの計算機となり得た、ということなのか。