●読み始めたばかりだけど『タックスヘイブンの闇』(ニコラス・シャクソン)という本を読んで打ちひしがれている。いや、これじゃあもう世界なんて良くなるわけないじゃん、みたいな気持ちになる。要するに、グローバル経済というのはタックスヘイブンのため(タックスヘイブンに資産を隠匿する企業や大富豪のため)にある、といっても過言ではないのではないか。
●この本でのタックスヘイブンの定義は、「人や組織が他の法域の規則・法律・規制を回避するのに役立つ政治的に安定した仕組みを提供することによって、ビジネスを誘致しようとする場所」とされる。
そしてその特徴として、(1)守秘性(他の法域との情報交換の拒否)、(2)税金がまったくないか、税率がきわめて低い、(3)スポークスマンが「ここはタックスヘイブンではない」と主張し、その批判者の「信用を落とすための活動」(怖い怖い)を積極的に行う、(4)政治が金融サービス業(あるいは犯罪者、あるいは両者)に乗っ取られていて、それに対する反対は排除される(故に政治的に安定している)、という四つが挙げられている。
以下、訳者のあとがきから。
《たとえば、タックスヘイブンを利用した多国籍企業のリインボイシング(移転価格操作)によって「途上国は毎年一六〇〇億ドルの税収を失って」いるし、途上国の腐敗したエリートたちは自国の富を略奪してタックスヘイブンに隠匿している。こうした不正や不公正がなければ途上国はじつは純債権国なのであり、外国からの援助がなくてもやっていけるのだと著者は言う。》
たとえば、自社ブランドをアイルランドに置くバナナ会社があるとする。バナナ生産のための子会社をホンジュラスに置き、金融サービスの子会社をタックスヘイブンであるルクセンブルクに置く。ルクセンブルクの子会社がホンジュラスの子会社に融資をし、ホンジュラスの子会社がルクセンブルクに年間2000万ドルの利子を払うようにする。つまり、ホンジュラスの会社はその分利益が減り、ホンジュラスへと支払う税金も減る。2000万ドル分の税はきわめて税率の低いルクセンブルクで支払う。ホンジュラスは税収を奪われている。
タックスヘイブンは途上国だけでなく、先進国からも富を奪う。以下は本文から。
《金融業者たちは、アメリカをはじめとする経済大国の政治家にオフショア(タックスヘイブン)という棍棒で脅しをかける。「課税や規則を厳しくしすぎたら、われわれはオフショアにいくぞ」と。》
《経済規模の大きい国では租税負担が移動可能な資本や企業から普通の市民の肩に移ってきている。》
アメリカの企業は一九五〇年代にはアメリカの所得税総額の五分の二を負担していたが、その割合は今では五分の一に低下している。アメリカの納税者の上位〇・一パーセントにとっては、一九六〇年代には六〇パーセントだった実効税率が、所得の増大にもかかわらず二〇〇七年には三三パーセントに低下していた。上位〇・一パーセントが一九六〇年代の税率で所得税を支払っていたら、連邦政府の二〇〇七年の税収は二八一〇億ドル以上増えていただろう。》
《(…)豊かな人々の払う額が減っており、他のすべての人がその減少分を負担しなければならなくなっている》。
《「税金は庶民が払うものだ」。ニューヨークの大富豪、レオナ・ヘルムズリーがかつてこう言い放ったことはよく知られている。この言葉は正しかった。》
●ふたたび、訳者あとがきより。
《世界の三大バナナ会社は「二〇〇六年にイギリスで約七億五〇〇〇万ドル相当の売上を記録した」が、払った税金は三社合わせわずか「二三万五〇〇〇ドル」だった。》
●なぜ、法人税を下げ、消費税を上げるなどと、弱者に厳しいことをするのか。その理由はタックスヘイブン・ネットワークがあるからだ、と。(一部の)大富豪たちはまるでムスカみたいに「みろ、人がゴミのようだ」と高みから笑って眺めているのだろう。
そして驚くのは(というか、絶望的な気持ちになるのは)、タックスヘイブンに流れ込んでいる富の膨大さだ。世界の富の四分の一がタックスヘイブンに隠匿されているのだ、と。つまり、この分だけ世界全体から税収が奪われているともいえる。
《二〇〇五年、タックス・ジャスティス・ネットワークは、裕福な個人がオフショアに保有している資産はおそらく一一兆五〇〇〇億ドル相当にのぼるだろうと推定した。これは世界の富の総額の四分の一に相当し、アメリカのGDP総額に相当する。》
《このカネが毎年稼ぎ出す所得にかかるはずの税金だけで推定二五〇〇億ドルに達し、この額は途上国の貧困に対処するための世界全体の援助予算の二倍から三倍に相当する。》
●そして、タックスヘイブンに関わっていても、それを知らない場合が多い、と。怖い怖い。
《一般的に、オフショア・サービスを提供している会社の一般社員は、脱税などの違法なサービスが行われていることを認識できない。そこで起きていることの一部しか目にすることができないからだ。(…)「上級管理職になって国際経験を積んだら、そのとき初めてインナー・サークルの一員になり、物事がはっきり見えるようになる。自分も悪巧みに荷担していることに気づくことになる。(…)」オフショア・サービスに関する古いジョークのとおり「知っているものはしゃべらない、しゃべる者は知らない」のである。》