2020-06-20

●一昨日の続き。『ラディカル・マーケット』第一章「財産は独占である」から引用。

●COSTを導入するとしたら、まず何からはじめるべきか。

《市場と経済の仕組みを根本から変えることになるシステムに、一足飛びに移行するのは軽率だろう。自分が所有しているものを正確に評価する方法がわからない人もいるかもしれない。》

《近い将来にCOSTを導入するとしたら、適応先としていちばん有望なのが、現時点で政府が保有している資産と、民間の市民や企業に売却またはリースされている、あるいは近くそうされる可能性のある資産である。政府はこうした資産を恒久的に売却したり、一定期間リースしたりするのではなく、COSTベースのライセンス料を含むライセンス契約を結んで、部分売却できるようになる。政府はまず、資産をオークションにかける。落札者は価格を自己申告し、その価格に基づいて税金を払う。その後は、他の誰でも申告された価格で資産を売却させられるようになる。》

《放送用電波の周波数帯域を例に考えてみよう。1990年代初め以降、長期の周波数帯域の利用免許が世界中の政府によってオークションにかけられている。オークションで利用免許を取得した会社が、利用免許をより高く評価している会社になかなか売却しようとしないのだ。新しい用途で使うには免許をリパッケージする必要があることが多く、鉄道やショッピングモールを建設するときのような高額要求問題が生まれている。いまでは膨大な量の帯域幅を視聴者数の少ないテレビ放送が保有しているが、これを無線インターネットで使えるようにすれば、もっと有効に活用できるようになる。》

●COSTの導入によって「格差」はどのように(どの程度)縮まるのか。シミュレーション。

《COSTには平等化を実現する潜在的な力があることを示すために、典型的なアメリカの家庭にどう影響するか、考えてみたい。COSTが生み出す歳入の半分は資本にかかる他の税金を減らすために使われて、資産価値には影響を及ぼさない一方で、残り半分は均等割りで国民に還付されると仮定しよう。アメリ国勢調査によると、世帯主が45~54歳の4人家族が保有する資産の中央値は、ホームエクイティ[訳注 住宅の評価額からローンの残高を引いた正味価値]が約6万ドル、その他の資産が2万5000ドルである。COSTを7%とすると、こうした資産の価値はおおよそ三分の一下がるので、ホームエクイティは4万ドル、その他の資産は1万6000ドルになる。この減少後の価値を基準にすると、他の(既存の)資本税の減税分を差し引き後のCOSTは3%となり、税額は年間およそ1700ドルになる。そして、この家族は年間2万ドル以上の社会的配当を受け取る。そのため、たとえ家族が自分たちの財産に深い愛着を持っていて、市場価格の2倍の評価額をつけたとしても、COSTからネットで1万6600ドルの恩恵を受ける。同じ年齢層の所得分布上位20%の世帯では、純資産の中央値は65万ドルである。先ほどと同じ計算をすると、こうした世帯はおよそ1万9500ドルのCOSTを支払うが、2万ドルの社会的配当を受けるので、500ドルの恩恵を受けることになる。いちばん打撃を受けるのが富裕層だ。上位1%の世帯の平均資産は1400万ドルである。このグループの世帯は年間約42万ドルのCOSTを支払うことになる。》

《住宅の資産価値がローン残高を下回っている、クレジットカード債務や学生ローン債務を抱えているなど、家計の状況が苦しい世帯にとっては、COSTはむしろ補助金になるだろう。債務が資産を上回るので、社会的配当を受ける前の段階で、個人資産にかかる税金が差し引きで還付される。実質的に、純負債の3分の1がただちに免除されることになる。

ある家庭が評価額30万ドルの住宅を所有していて、住宅ローンが42万ドル残っているとしよう。前に述べたように、7%のCOSTが資本化されると、資産については将来の税負担が、債務については将来の補助金が価値に反映され、資産と債務の価値は約3分の1下がる。したがって、住宅の価値は20万ドルに、住宅ローンの残高は28万ドルに下がる。その後、8万ドルの債務超過分について3%の補助金(2400ドル、この場合も、規制の税金と比べたもの)を受け取るので、それを住宅ローンの返済にあてることができるうえ、年間2万ドルの社会的配当も支払われる。》

《こうした効果を足し合わせると、COSTを導入することで所得が大きく再分配されるようになる。現在の基準で測定された資本収益率に基づいて推定すると、アメリカの所得のうち資本が占める割合は30%であり、この富の40%を上位1%が保有している。前に指摘したように、COSTが実現すると、資本収益のおよそ3分の1が再分配されて、上位1%が所得に占める割合は4%ポイント下がる。これは、最近の水準と1970年代の低い水準のほぼ中間になる。》

●個人的に思い入れのあるものが売られないようにする

《COSTが実現すると、人間と財産の関係が変わるかもしれない。あるペンを見るとそれをくれた人のことを思い出すので、そのペンを大切にしているという人もいるだろうし、愛車に乗って数々の冒険に出かけたから、自分の車が好きだという人だっているかもしれない。ペンをなくしたり、愛車が事故で壊れたりする可能性がいつだってあることは、誰でもわかっている。私たちはこうしたリスクをいつも許容し、予防策をとってリスクを管理する。COSTの場合、自分の大切なものを強制的に売却させられて失うリスクを最小限にしたければ、簡単にできる。高い価格を設定するのだ。つまり、自分がそれをどれだけ高く評価しているか、その度合いに応じて税金を払わなければいけない、ということである。》

《われわれのCOST案は、個人的な思い入れがとても強くて、絶対に売りたくない品があることを考慮した設計になっている。その品の自然回転率が低いと、税率も低いので、売却されないようにするための(税負担という形の)「価格」も低くなる。家宝の価値はほとんど例外なく保有者のほうが赤の他人より高いため、実際には家宝を守るのにそれほどコストはかからない。あるいは、家宝などの個人的な財産は、(タックスヘイブンがつくられるのを避けるために)妥当な範囲内で、COST制度そのものから除外してもいいだろう。こうしたものの価値の総額はどう考えても大きくないので、COST制度に組み込んでも、経済的インパクトも大きくないはずである。》

●ぱっと思いつく感想としては、なにか「怠惰であること」が許されないような社会になるのではないかという点がある。《怠惰》であり《人嫌い》でもある人間としてはやや懸念を感じる。既得権や搾取から生まれる怠惰は許さない、ということなのだが。

《これ以外にも、怠惰、無能、悪意といった取引を阻む障害があるが、経済学者はこの三つを顧みない傾向がある。私有財産だと、怠惰な所有者や人嫌いの所有者は、資産を退蔵してしまうものだ。それも、利益を得るためではなく、怠慢によってである。この問題は、封建制度の下で特にはびこっていたように思われる。この時代の地主は、思慮深くもなく、倹約もしないし、勤勉でもなかった。ノーベル賞経済学者のジョン・ヒッグスはかつて、「独占の最大の利益は、静かな暮らしを送れることだ」と述べている。COSTの場合、所得を生み出して高い評価額を維持できなければ、もっとうまく使える人に資産を明け渡さなければいけなくなるため、怠惰な独占者は静かな暮らしを送れなくなる。》

●(補遺) 『ラディカル・マーケット』は、VECTIONの議論のなかで西川アサキさんから教えてもらった。

https://vection.world/