●以下は、あくまでぼくの「にわか勉強」による認識なので、間違ったところもあるかもしれません。
●資本主義というと国(国家権力)と企業(資本)のことを考えるけど、それより、国と銀行(金融)と資本という三項を考えないといけないのだと、タックスヘイブンについて調べて思った。たとえば、イギリスと、イングランド銀行との戦いで、イングランド銀行が勝つことによって、強大なユーロダラーの市場(アメリカの法律の外にあるドル市場)が開かれ(五十年代の終わりくらい)、それが、シティ・オブ・ロンドンタックスヘイブン・ネットワークが世界中に広がる原動力となる。あるいは、アメリカと、アメリカの銀行との戦いでアメリカの銀行が勝つことで、アメリカがタックスヘイブンとなる(アメリカ内にタックスヘイブンが生じる)。六十年代のケネディなどは銀行と闘おうとしたが、上手くいかず、次第に、これを利用した方が得ではないかと路線が変更される。この顕著な例が八十年代のレーガノミクスタックスヘイブンのというのは、「あらゆる国の法律」の外にある経済圏と言えて、そこではあらゆる国の法律から自由なマネーの動きが可能になる(そこには、世界の富の四分の一がある)。守秘義務を持っている銀行口座には課税できないし、いくつもの秘密口座を経由することでお金の出所も分からなくなる(マネロン)。そして、あらゆる国の法の外にあるタックスヘイブン圏の銀行には、法定準備金の規定がないので、原理的には無限の信用創造でマネーを増やし続けることができる(実際にはそこまでの無茶はしないとしても、マクロ経済による制御が不可能になり、金融はきわめて不安定になる)。
ヨーロッパの金持ちが秘密財産を隠したり、税金を逃れたりするために使うとか、カリブの島に怪しげな犯罪マネーが集められるとか、そういう古くて呑気なタックスヘイブンのイメージはもう成り立たなくて、それは、世界じゅうの金融の動きを連動させて不安定化し、健全な企業のお金と犯罪者のお金とをつなぐ媒介となり、途上国からの莫大な搾取を行う仕組みの根幹となっている。
タックスヘイブンは、あらゆる国家権力から自由な、アナーキーリバタリアンユートピアとも言えるが、その自由と幸福は、ごくごく一部のお金もちとグローバルな大企業にとってのみ有効であり、そしてそれは、お金持ちたちが国家が整備するインフラにタダ乗りすることで可能になる。
格差、というのはある程度仕方がないとしても、タックスヘイブンには明らかな問題がある。(1)あらゆる国の法の外でグローバルに結びついた巨大で自分勝手なお金の動きが、世界の金融システムを不安定化し、金融危機を起こしやすくする。そして、実際に金融危機が起ってしまった場合、そのきっかけであり、原因であるとさえいえるお金持ちたちは、何のペナルティを負うこともなく、すみやかに自分のお金を安心できる場所に移すことができる。(2)途上国からの大規模な搾取を可能にする。『タックスヘイブンの闇』によると、裕福な国が途上国に対して支払う援助金の約十倍の額を途上国から搾取している。そのお金は、多国籍企業や資産家、そして何より、その途上国のごく一部のエリートたちの私腹を肥やすことになる。その国のエリートをタックスヘイブン側に組み込むことで、その国に対する搾取システムをつくることができる。(3)大企業やお金持ちが租税を回避した分のツケは、中間層より下の、容易に資産を外国(タックスヘイブン)へと移転できない人々が負担することになる。先進国の、中間層以下の税や社会保障の負担は、ここ三十年間上がり続けている。一方、タックスヘイブンがある限り、企業やお金もちは、法人税や、所得税最高税率を上げるなら、タックスヘイブンへ資産を移転するぞというプレッシャーを、国に対してかけることができる。ニューヨークの大富豪、レオナ・ヘルムズリーの言葉、「税金は庶民が払うものだ」。
●とはいえ、タックスヘイブンのネットワークは、あらゆる国の外にある、国という単位を超えた(国と国との間のどこでもない場所としてある)ものなので、それと対抗できる存在がほとんどない。考えられるのは、国連かOECD(経済協力開発機構)だが、国連の力は弱いし、OECDの加盟国のなかにもタックスヘイブンによる恩恵を大きく受ける国が多くある。
(ただ、OECDは、マイナンバーのような制度を利用して、IDと財産を完全に紐づけて、隠し財産を不可能にするようなシステムをつくりつつあるようなのだが。追記、IMFタックスヘイブンの味方っぽい)
●80年代以降に進行したこと。
1.ヨーロッパの上流階級が育み、スイスが牽引した(主に秘密資産の運用と脱税のための)古いタックスヘイブンが、イギリス帝国の辺境に位置し、ロンドンと密接につながる、より柔軟で攻撃的なタックスヘイブンのネットワークに追い越されつつあった。
2.国家のなかの別の国家であるシティ・オブ・ロンドンが、暗黙で複雑な慣習に従って金融を支配していた伝統ある紳士たちのクラブから、シティのネットワークが成長することで、より不作法で規制の緩い、グローバル金融センターに変貌した
3.アメリカの銀行によって築かれた、アメリカ中心のタックスヘイブン・ゾーンも、急速に成長した。
4.「2」と「3」とが、国家の域を超えたユーロダラー市場によって密接につながることで拡大し、それがタックスヘイブン経済圏(それだけでなく、通常の合法的な経済圏にも)に大きく力をもつようになり、銀行を、準備金規定や様々な制約から解放した。