●最近やっているドローイングのシリーズは、自分ではちょっと面白いのではないかという手ごたえもあるのだけど、ただ、ちょっと足りないのが、フラクタル構造のようなものが自然に生成されるような感じにならないのかなあ、とは思っている。
(意識的にフラクタル的な構造をつくることはむつかしくないが、それではたんに「フラクタル画像」にすぎない。)
たとえば、井上実の絵画はそうなっている。一つの平面に、異なる階層が同時に現前してしまっているような感じがある。異なる階層というのは、異なるレイヤーというのとは違う。異なるレイヤーが共存している絵画など、今では既にありふれている。そうではなく、雑なたとえ方になるけど、「ニワトリ」と「鳥」と「動物」とが、一枚の絵のなかで、同じ強さで並列的に現前しているという感じになっている。だから観ているとほんとうにくらくらする。井上作品の異様な密度はおそらくそこから来ている(たんに、描写の細密さからくるわけではない、それだったら8K映像とかには勝てない)。ぼくが知る限りでは、現役の作家で井上実以外にそれができている作品をつくっている人はいない。
(こんなにすごい画家がほとんど話題になっていないのは理不尽としか思えない。)
井上くんは、おそらくそれを意識してやっているわけではない。井上実システムで絵を描いていくと、自ずとそうなっていくのだと思われる。ただ、その「井上実システム」には、そのシステムに不可欠な一部として実在的な井上実が含まれているから、それをたとえばぼくが真似したとしても、同じようにはならない。だからぼくは、自分がそのなかに含まれても可能である、フラクタル的構造生成システムをみつけださないといけない。まだまだだなあ、と。
●INOUE MINORU WORKS
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