2019-04-08

●引用、メモ。グレアム・ハーマン『非対称性』より。対象と可能性(「幽霊のような対象」に関する事実に抗う思弁)

「あるモノに多様な行為=活動をになう力があり、まさにこの理由によって、いかなる行為も遂行する必要がない。」

《家を建てる作業をしているときにはじめて、その誰かは大工になるという言明は意味をなさない、というアリストテレスの論点についてはすでに考察した。ひとが家を建てるのは、ひとえにその者が大工であるからであり、その逆ではない。より一般的に言えば、あるモノに多様な行為=活動をになう力があり、まさにこの理由によってどんな個別の行為も、あるいはいかなる行為も遂行する必要がない。これはあらゆる種類の関係論的な存在論に対立するOOO(オブジェクト指向存在論)の典型的な反駁である。実践的方法に関しては、行為体の行為=活動を強調しすぎれば、これに対して事実に抗う問いを発するわれわれの能力をとりこぼすことになる。様々な著者や政治家、野生動物を、それらがどの程度の影響力をふるっているかという点によって評価するとすれば、われわれはこの世界についてのモデルから、逃した好機や不運、愚かさを抹消することになる。(…)対象を堀りあげる(上方還元する)いかなる理論も「彼らがすること」に即して対象を変換して表現することで、歴史とは勝者たちの名簿、つまり、なるべくしてなったのではない成功や失敗という面を全くもっていない名前のリストであるということをすでに認めている。(…)うまくいった行為=活動は、ある対象の実在についての良質で大ざっぱな徴候ではあるけれど、それはまさしく粗けずりの徴候でしかない。》

《ある対象は、それが成功することによってよりも、直近の失敗によってよりよく知られる》。

(…)あらかじめ先に存在する終局ではない、近くにある失敗をわれわれは探すべきなのだ。VOC(オランダ東インド会社)は日本や中国で優勢を占めたかもしれないこと---これらの敵対勢力はずっと強いものであるのがわかったが---は考えられるし、また同じように、カルカッタマカオで勝ち誇って台頭したかもしれないとも想像できる。この二つの場所でVOCは軍事的に全く失敗していたのだが。これらの失敗は、果てしないVOCの膨張志向との原理と、VOCが無限に続くように強いる要因との消えることのない間隙に光をあてる。こうした失敗は、事実に抗う終わりなき思弁---これについては無意味とはかぎらない---に力を与える「幽霊のような」対象を生み出す。》