2023/06/25

⚫︎マティスの絵を観る時には、時としてマティスの言葉を裏切る必要がある場合もある。例えば、「1㎠の青はどれでも、同じ青が1㎡の青のときほどは青くない」というマティスの有名な言葉があって、これは後の、ロスコやニューマンなどのカラーフィールド絵画の根拠ともされている。これはもちろん、ある面では正しいが、別の面ではそうとも言えない。マティス自身の「赤の調和」(1908年)では、画面の多くの部分を覆う面積の大きな(そして厚塗りの)赤と、テーブルの上にいくつか散らばる果実の持つ、面積の小さなちょこんとした(薄塗りの)黄色とが、(感覚的には)同等の強さで釣り合っていることが、この絵が成立している一つの要件となっている。マティスの言葉を言い換えるならばここでは、「(画面上のレイアウトにより)1㎠の黄色と、1㎡の赤が同等な重みで釣り合うことがある」ということになる。

ある意味では、どんな色もどんな形も、ある特定の大きさ(スケール)を持っているが(ニューマンやロスコなど)、別の意味では、色それ自体、形それ自体は特定の大きさ(スケール)を持たない(熊谷守一など)。クロームイエローは、どんなに面積が大きくても、小さくても、クロームイエローであり、正方形は、どんなに大きくても、小さくても、正方形である。この両者が共に成り立つからこそ、配置の仕方によっては大小(スケール)の反転が起こり得る。

また、色の持つ感覚的強さや質は、さまざまなやり方で、三+一次元的な時空間の秩序(遠近・前後・図地・大小・軽重、そして虚実)を揺るがし、再編成を促す。