2023/12/12

⚫︎「近代絵画」についてのイベントで、絵を描いたことがない人に、いわゆる数学的な遠近法とは違う(そして、陰影法とも違う)、色と色との関係を使って空間を表現するやり方の、実例というか、ごく初歩的なエクササイズを、直感的にわかるように示したいと思い、それには美大受験生の作品を見せるといいのではないかと思って、受験生時代に見ていた『芸大・美大をめざす人へ』というムック本がどこかに残っていないだろうかと探したのだが、見つからなかったので、あまり良い例とは言えないかもしれないが、代わりにぼくが受験生時代に作った課題を例に出してみる(キャンバスボードに、色画用紙やクラフト紙、トレーシングペーパーなど、さまざまな質感の紙を切り貼りし、木炭あるいはインクで一部描画している)。

(今見ると、画面の中心となる鉢植えの大きな葉の植物の「空間の捉え方」が硬いというか、ぎこちない。)

これは多分、コラージュでモチーフの空間を表現しなさい、みたいな課題への提出物だった思う。いわゆる「写実」ではないけど、特別なことをやっているのでもなくて、色と色との関係を使って、ごく常識的に三次元的な空間を再現(表現)している。だから作品というより、あくまで「課題」だ。たとえば、油絵を描くときでも、最初の、描き出しの段階では、このような感じで大雑把に空間を捉えてから、細部を詰めていく。つまりこの段階では、モノを描いているのではなく、空間の構造を構築している。

ぼくにとっては、これはあまりに当たり前の初歩的な段階(前提)なのだが、この感覚が他の人(たとえば「近代絵画」に特に興味があるというわけではない人)に、どの程度共有されているのかが、不安なのだ。これが、ごく普通に三次元空間を表している(画面左下の手前に草が伸びていて、右側中頃に大きな葉のついた鉢植えの植物があって、その左後ろにブロックがあって、ブロックの上にも植物の鉢があり、背景にはパーテーションの仕切りがある)ということを、感覚的、直感的に、腑に落としてもらえるのだろうか。もしかしたら、単にバタバタとした無秩序な状態にしか見えないのではないか。

このような「不安」が、あるいは、このようなレベルの事柄があまりにも語られていないのではないか、ということが「未だ充分に尽くされていない「近代絵画」の可能性について(おさらいとみらい)」をやりたいと思った動機の一つだ。