ある日のこと。

アトリエからの帰り。空いた電車から、夜遅い、人気のないホームに降りる。誰も乗っていないエスカレーターが、音もたてずに動いているのを、下から見上げる。いや、電車が行ってしまって静かになると、微かにジーッという音が聞こえる。でもそれは、自動販売機がたてるブーッという唸る音よりもずっと静かだ。次から次へとあらわれては上ってゆく階段部分、ぐるぐる廻っているゴムの手すり、圧迫するように両側に建っている白々しいクリーム色の壁。それらを、へんに明るくて無機質な蛍光灯の光が眩しいくらいに照らしている。目がチカチカする。脇にある、空き缶専用のゴミ箱の下の隙間からは水が漏れていて、黒ずんだ地面に地図のような染みをつくっている。エスカレーターの手前でほんの一呼吸分だけ立ち止って、首をコキコキと鳴らしてから、それに乗ってスーッと上へと運ばれてゆく。