02/01/29

●街灯の届かない屋上の地面に、丸々と大きく夜空に浮かぶ月の光が青白く反射して、まるで屋上のコンクリートそのものが内側から発光しているみたいで、ぼうっと明るい宙に浮いた光の場になっている。空の月はオレンジ色に輝いているのに、その光を受けたコンクリートは薄青く染まった光をまとっている。屋上に設置されている大きなパラボラアンテナの影がくっきりと落ち、コンクリートの表面のざらついた荒いきめがはっきり見えるくらいの強い月光だ。片隅に2枚揃えて放置してある、網の破けた網戸の四角いエッヂの金属部分が不自然なくらい際立ち、鈍く寒々と周囲から浮き上がっている。青いナイロン製の細い糸で編まれた(ところどころ破けた)網の半透明な表面に光があたり、半分はそこを通過し、半分は反射して目まで届く。月を背にすると自分の影が地面に落ちているのが見える。青白い光と青黒い影との対比。屋上の縁に沿ってぐるりと一周する。滑るようにはしり抜けてゆく電車の窓から漏れる光。びっしりとひしめくマンションの窓からの光。光を吸い込んでいる緑地のあたりの闇の塊。移動する車のヘッドライト。暖色で粒子の荒い街灯の光がポツポツと点り、道を歩く人々の小さなシルエットが動いてゆく。
●明けて、朝の6時前。東の空に薄っすらと赤味がさしはじめても、月はまだ高い位置で煌々と照っている。辺りはまだ暗い。それでも、地平線際のかすかな日の光には勝てず、月の光はもう青黒い影はつくらない。坂の途中にある植物を栽培している温室の前、凍結しないために流しっぱなしの水道の樹口から、零れ落ちる水の音、と、落ちた水がしぶきをあげる音が、静かに響いている。水が流れて排水口に吸い込まれてゆく。