あり得ないくらいのいい天気で

●昼過ぎに買い物のために表に出たら、あり得ないくらいのいい天気で、空は春特有の鈍い霞がかかったような色ではなく、深くて濃い青が嘘っぽい程に鮮やかで、真っ白くて巨大な雲がいくつもどかーんと浮かんでいた。真上から射す光は足下に濃い影をおとしつつ、視界のずっと先までをクリアーに照らしていて、近所の道がいつもより広く感じ、空が大きく感じられるためか、建物は低く見え、広角レンズで捉えた風景みたいで、空間のスケール感がいつもより大きく感じられる。建物の二階より上の窓はどれもが空の青と雲の白を反映しているし、干されている洗濯物は、ギラギラする程強く光を跳ね返している。濃い緑の葉、黄緑色の草、黄色い実、紫色の花、黄色い花、薄いピンクの花、白い花、コンクリートの塀、トタンの屋根、地面に引かれた黄色い「止まれ」の線のかすれ、ショベルカーで掘り起こされた土、その匂い、ダンプカーのフロントグラスに反射する空の青、それらのものすべてがくっきりと質感を際立たせていた。八百屋の店の隅にある、短く切ったホースのついた蛇口と、その傍らのバケツでさえ、日が当たってすごく新鮮なものに見える。ぽかぽかと温かなのだが、空気が適度に乾いてさらさらしているので、動いてもあまり汗をかかない。買い物はとりあえず後回しにして、ちょっと川の方まで歩いてみることにした。川までの途中に横断する広い国道の銀杏並木には、小さくやわらかそうな若葉がごつい枝に貼り付いている。土手に生えている木々は真下のアスファルトにまだらの影を落とし、河原のひろがりは真上からの光を一面にのっぺりと受けとめて跳ね返し、川沿いの中学の屋上にある給水タンクが青空を背景にくっきり浮かび上がっていた。