●『輪るピングドラム』五話目。すばらしい。毎回、こちらの予測を裏切るというか上回る展開。前回がわりと緩めの荻野目苹果ショー的な感じだったのと打って変わって物語が急展開する。そして、詰め込み過ぎくらいに、いろんなものが詰め込まれている。
●五話目になると、そろそろいろいろパターンが見えてもくるのだが、一見、そのパターンを踏襲すると見せかけておいて、それを外すということが何度も行われて、しかもたんなるパターンのはぐらかしだけではなく、それが新たな展開につながっている。
●ペンギン頭を医者に向かって差し出す冠葉と、苹果に向けて差し出す晶馬。前回、苹果を救った晶馬と、今回、陽毬を救った冠葉(しかし、前回、ペンギン二号は水没する苹果に見向きもしなかったが、今回、ペンギン一号は冠葉に協力したのだった)。でも、双子の相似性はここまでで、兄の冠葉の謎(闇)が一層深くなる。「金なら俺がなんとかする」って一話でも言っていたけど、何のアテもなく言ってたわけじゃなかったのだ。一方、晶馬は、いっそう謎(闇)のない人物感が強くなる。回想場面の含め、陽毬-冠葉、苹果-晶馬という関係の線が強くなっているのか。とはいえ、苹果-晶馬の線は、陽毬-冠葉の線の影のようなもので、それ自体として自立して強くあるわけではない感じ。
●「生存戦略」空間の内部に苹果が…。当初、高倉家の人々がこちら側だとすると、苹果はあちら側的な登場人物と思われたが、完全にこちら側的になってきた。むしろ兄、冠葉のあちら側感が強まる。(陽毬との関係の線によって、あるいは家-記憶によって)こちら側にいる、あちら側としての冠葉。しかしそもそも、ペンギン頭-陽毬こそが、こちら側に内包されたあちら側ではなかったか。そして、新たなあちら側的存在が登場する。つまりそれは、二種類のあちら側(宇宙人と謎の女性たち)が存在するということなのか(金-親戚という、もう一つのあちら側もあるけど…)。さらに言えば、多蕗-時籠カップルと苹果の関係は、高倉家と二つのあちら側たちとの関係に、どれくらい絡んでくるものなのか。
高倉家から外に延びる(あるいは外から高倉家へ入り込む)三つの関係の線があると言える。陽毬-ペンギン頭という線、冠葉-謎の女性たち(さらには冠葉-金-霞が関?)という線、苹果-多蕗・時籠カップルという線。それぞれ、宇宙へ延びる線、地上-陰謀?(世俗)へ延びる線、そして恋愛-妄想(幻想)へ延びる線、と言えるかも(天から降りてくる陽毬と、床下に潜み水没する苹果とは、そのような意味でも反転的なキャラクターなのか、毬とリンゴはどちらも球形だし)。ここで、晶馬が高倉家の(空虚な?)中心に位置するとともに、(今のところ)どの関係にも拘束されないフリーな駒となる。人物同士の関係が、分岐的に展開すると同時に多層的に重なり合う。このようなフォーメーションの複雑さがこの作品の面白さの一つ。
●回想の冠葉の父と、現在時の苹果の父(今回は「父の回」でもあった)。これは、冠葉、苹果のどちらにとっても、過去の父の強い存在感と現在の父の不在(希薄さ)を表現する。それはつまり、二人とも過去に強く拘束されていることをも現す(苹果が持つ、未来が書かれた運命のノートは、おそらく過去との強いつながりをもつ、ここでの「運命」とは未来における過去の召喚ではないか)。このような父の像はどこかで、「ウテナ」における「失墜した王子」という主題と繋がっている気がする。王子が失墜することでウテナも失墜する。でも、すべてはそこからはじまる(「ウテナ」では三部があることがとても重要)。だからやはり「ピングドラム」は、「ウテナ」の先にある話なのだと思う。それにしても、兄たちから過剰に愛される陽毬に対し、苹果は、徹底して誰からも愛されない(愛されているという設定を必死に守ろうとしている)っていうキャラになってるんだなあと思った(そのかわり、奈落から這い上がってくるほどに強い生命力をもつ)。
●「輪る」というのは反転するということでもある。白/黒という反転する色を持ち、水のなかの鳥という反転したイメージをもつペンギンが中心にいるのはそのためでもあると思う。だが反転は二元論ではなく、関係を分岐、展開し、また重ね合わせるための原理、つまり複雑なフォーメーションを実現するための原理としてある。
●色彩がすばらしい。パステル調でカラフルな背景だけでなく、それぞれの人物のトータルな色彩的な設定が、異なる「色の響き」としてあって、それがそれぞれうつくしいし、料理の描写の色もよい。しかしなによりも、記憶そのものであるかのように情報が圧縮されている高倉家の空間の複雑さが、描き込みの密度やアイテムの量や雑多さだけでなく、色彩の(響きの)複雑さ(混沌に陥ってしまう一歩手前くらいの過度なカラフルさ)によって表現されているところがすごい。情報の圧縮を色彩の響きとしての複雑さで表現しようとしたアニメって他にあるのだろうか。「生存戦略」空間と高倉家の室内とが、色感的にちゃんと繋がっているというのもすごい。
●あと、ヒロインごとに、それぞれの決まり文句があるのが面白い。ファビュラスマックス、デスティニー、生存戦略
●原作のイクニチャウダーってどんな人なのか、アニメ界では有名な人なのか、と疑問に思っていたのだが、たんに幾原邦彦のイクとクニとでイクニなのかと今ごろになって気づいた。