2022/01/16

●『ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画』(ケリー・ライカート)をU-NEXTで観た。これも面白かった。特に前半。ただ、後半の展開をどう考えていいのか、少し難しい。カメラも演出も『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』ほどはキメキメではなくて、いい感じに緩い。

前半は、急進的な環境保護活動をするグループの、三人の男女が、ダム爆破計画を実行する過程が淡々と描かれる。行為自体はテロであり、(ダムを破壊するだけで、人を誰一人傷つけないという想定ではあるが)大変なことをやろうとしているわけだが、そのプロセスは、地味な行為の積み重ねであり、三人の登場人物間の軽い摩擦や相互不信、思わぬ関係の展開などはあるものの、目的のはっきり決まった行動は基本的にシンプルに進んでいく。そして、軽いサスペンス要素はあるが、計画はほぼ順調に進み、滞りなく実行される。前半が面白いのは、行為とその描写としては、割と緩めに進行し、散文的な時間が積み重ねられていくのだが、目的が常識的なものではないため、(切迫しているという程ではないが)軽い気負いや緊張感が常に登場人物たちにあって、ピンと張り詰めた緊張感とは異なる、時間の流れは緩いのだけどそこに常に軽い緊張がはしっているという(散文的時間と軽い非日常感の混淆みたいな)、不思議な時間の流れになっているところ。

若い男(ジェシー・アイゼンバーグ)と若い女(ダコタ・ファニング)、若い男と中年男(ピーター・サースガード)は知り合いらしいが、若い女と中年男は初対面という三人が、週末に集まって日曜にテロを行い、翌日には日常にもどってしれっと職場で働く(ノリとしては、普段は別々に普通の仕事をもって働いている人たちが、週末に集まって過激な内容の自主映画をつくっている、というのと変わらない感じ)。後半は、若い男の普段の生活を淡々と描写しながら、それでもどこか少しずつテロ以前とは違って何かがおかしくなっていく、という感じで進むのかと予想したのだが、思ったより強く、思ったより急激に悲劇的な展開になっていく。

後半は視点が若い男に集中する。この男は、コミューンのように共同生活をしながら農業をやっている農場で働いていて、この農場の描写がとても面白いので、若い男の労働や農場の人々の描写をもっと観たいと思った(中年男が、化学肥料を使って爆弾をつくる過程と、若い男が、農場で土をこねて水を足している過程が似ているのも面白い)。若い女の職場---温泉を用いた療養施設のようなところ---も面白くて、もっと観たかった。しかし、誰一人傷つけないはずだった計画が、たまたま下流でキャンプをしていた人が一人犠牲になってしまったことから、話は悪い方向へ流れ出す。若い女が、犠牲者を出してしまったことへの罪悪感から不安定な状態になり、若い男は、若い女が自首するのではないかという不安に苛まれるようになる。職場である農場で、その「政治的活動」にかんする悪い噂が流れているようで、それをきっかけに農場をやめた若い男は(農場をやめることを決めた、その夜の場面もとても良い)、若い女を訪ねて殺してしまうという展開になる。

純粋な若い女と若い男は、「運動」に動員され消費されるが、小狡い中年男はのらくらと逃げ切るみたいな展開(とはいえ、若い男が殺人で逮捕されれば、中年男も逃げられないだろう)になっているが、行為の散文性と目的の特異性のちぐはぐさが面白い前半に対して、割と常識的に因果応報みたいなベタな悲劇的展開を見せる後半をつなげるという構成を、どう捉えればいいのだろうか。不満ということではないのだが、いまひとつ上手く腑に落ちない感じはある。最後のカットも、ちょっと意味ありげ過ぎないか、とも感じた。