2024/01/19

⚫︎『按摩と女』(清水宏)をU-NEXTで。これは素晴らしかった。映画として素晴らしいということももちろんだが、過去にあるものが、まさに、今、ここにあるかのように立ち上がってくるこの生々しさはなんなのだろうか。1938年の映画だとクレジットされているし、確かに、高峰三枝子佐分利信もだいぶ若い。子供の描き方などいかにも古い日本映画だし、風俗的描写も古い。それなのに、これはつい最近撮影されたもので、この映画で見ることのできる人や物、風景は、今でもその場所に行けば見られるように存在しているとしか思えない感じが映像からくる。若い高峰三枝子の顔立ちや佇まいが現代の人っぽいとか、撮り方が古典映画っぽくなくて現代ヨーロッパ映画みたいだとか、そういうことも原因としてあるのかもしれないが、それだけではないだろう。古いものを観ているという距離の感覚が起動しない。こんな温泉旅館がどこかの山の中に今もあり、こんな高峰三枝子や、こんな佐分利信もどこかに存在していて、1938年が今もどこかに、(時間的にも空間的にも)決して遠くない距離にそのままあるとしか思えなくて、時間の遠近法がおかしくなって目眩がする。

(たとえば佐分利信のはにかんだような表情。同じような表情を過去に他の映画でも何度も観てきたように思うが、しかしその「はにかみ」が、まさに今ここで起こっているかのような近さで迫ってきた。)