⚫︎山下達郎の「あまく危険な香り」は、1982年に放送された根津甚八が出ていた同名のドラマの主題歌で、ドラマの内容はまったく憶えていないが、放送時中学生だったがそれ以来ずっと好きで、今でも時々聴くが、(ぼくはしばしばそうなのだが)歌詞の内容をまったく気にせずに聴いてきていた。なんかエロい感じの詞だろうくらいの感じの認識しかなかった。
(そもそも山下達郎の曲は、「SPARKLE」にしても「RIDE ON TIME」にしても、こういう言い方はなんだけど、詞がどうこうというような曲ではない。いや、この思い込みこそが間違っているのかもしれない。)
なんとなく頭の中で曲が再生されて、《そっと目隠しのふりして/通り過ぎる》で終わるのって、ちょっと変わっているなあと気づき、一度、詞を冒頭から思い出しながら、意味を構成してみようと思い、してみたら、えっ、こんな詞だったのかと驚いた。要するに、《あなた》があまく危険な香りを濃厚に発しながら誘ってくるのだが、それを《そっと目隠しのふりして/通り過ぎる》という内容だ。え、スルーするの、と。その理由は、あなたが発するエロティックな《愛の香り》よりも、あなたへの不信感の方が優ってしまうから、ということだ。《一度は/傷ついたはずの心で/信じあえるにはあまりに/悲しすぎる》。《二度と振り向く/ことはできない》。《あなたに/取り戻す日々はもうない》。拒絶の表現が、三段階でだんだん強くなる。エロい感じなのは歌詞の前半だけで、後半は不信感と恨み節でガンガン押してくる。そして、拒絶の表現が最も強くなった後、最後に《そっと目隠しのふりして/通り過ぎる》と、ふっといなすような、急転直下な感じで終わる。
《あなたの/思わせぶりな口づけは/耐えきれぬほどの苦しさ/心は/暗がり扉の陰で/報われぬ愛の予感に/震える》と、息苦しいほどに濃厚な《愛の予感》で始まる詞が、まさかこんなオチに辿り着くとは予想できない。まあ、スルーするからこそ、充満するエロい予感がどこにも解決されないまま、濃厚なままでその場に残り続けるということだが。
濃厚なエロ(愛の予感の盛り上がり)→不信感(踏みとどまりと抵抗)→スルー、と、序破急になっていて、よくできてるといえば、とてもよくできている。40年以上も聴いている曲で、いまさら驚くということがあるのか。というか、なぜ今まで気づかなかった。