●からだの芯まで冷えると言うか、からだの芯から冷えるというような寒さ。時刻は夕方だがもうとっぷりと日は暮れて夜の黒い暗さの道を、駅に向かって身を縮こませながら歩いて行く。(自然と急ぎ足になる。)通り過ぎた家の軒のあたりから、石油ストーブに火をいれた直後にたちのぼる焦げたような匂いが漂ってきて鼻孔をかすめ、その匂いが想起させる、これからあたたかくなるであろうという期待の感覚が、あたたかさへ待機の姿勢へとからだを誘い、寒さに身構えて堅くなっていたからだがふと緩んでしまい、しかし現実には外の寒さのなかにからだはあるので、緩んだ隙間から寒さが容赦なく入り込み、身震いが背骨を伝ってからだを駆け上るのだった。おおっ、と思わず声が出、ポケットに入れていた手を取り出して息を吹きかけつつ擦り合わせ、背中を丸めて信号のあるところまで小走りする。