●昨日の日記に書いたリー・スモーリンという人には邦訳された本が何冊かあるようなので、さっそくアマゾンで注文した。
●それから、リー・スモーリンのインタビューでもう一つ面白いと思ったのは「創発的(emergence)」という言葉の使い方だ。「創発的」は「本質的(fundamental)」の対義語みたいな感じで、「幻影(あるいは「現象」)」みたいなニュアンスで使われる。物理学で使われる「創発」は、たとえば複雑系とかで使われる「創発(下位の諸要素の総和にとどまらない上位システムが出現すること)」とはちょっとニュアンスが違って、そのニュアンスの違いに、それぞれの視点というか、依って立つ位置の違いがあらわれていて面白い。
≪彼(ジュリアン・バーバー)の考えでは、時間は量子論によってあらわされる宇宙の中にいる存在が経験する錯覚であるといえます。つまり、幻影の一種といえるのです。物理学ではこれを「創発的」といいます。≫
≪たとえば「液体」は創発的な性質をもっています。液体は本質的ではなく、ほんとうに本質的なのは、原子と、原子間の相互作用の法則です。「温度」や「圧力」も創発的なものです。≫
●とはいえ、リー・スモーリンは時間を創発的なものだとは考えていないようだ。
≪私はこれについて、長い間考えてきました。この問題に関する私の考え方は、ここ数年でずいぶん変化しました。現在行っている研究によって、私は時間がきめて本質的なものであると考えるようになりました。つまり、時間は幻影や創発的なものではなく、実はその真逆で、時間の流れは相対的でありながら同時に本質的なものであると私は考えています。≫
●あと、ループ量子重力理論によると、ビッグバンは時間のはじまりではなく、時間はさらにさかのぼることができるという。ビッグバンはビッグバンではなくビッグバウンスで、前の世代の宇宙が収縮して、その果てにはね返り(ビッグバウンス)が起こって「この宇宙」がはじまった、と。つまりビッグバウンスによって「特異点」が消える。
≪問題となるのは、観察可能な痕跡をバウンスが宇宙につくるかどうかです。これは、インフレーション理論次第です。インレーション理論とは、宇宙のきわめて初期に急激な加速度的膨張がおきたとする考えです。インフレーション理論が正しければ、それは科学にとっては大きな勝利ということになりますが、残念なことに、ビッグバンやバウンスがもつ情報がかき消されてしまいます。(…)他方、インフレーション理論がまちがっている場合には、宇宙マイクロ波背景放射の観測によってバウンスの存在が直接見られるかもしれません。あまり可能性は高くないでしょうが、それはとてもエキサイティングなことです。≫