●お知らせ。東京新聞の12月5日付け夕刊に、東京国立近代美術館があたらしく購入したセザンヌの「大きな花束」について書いた記事が掲載される予定です。一応「展覧会評」の枠なので、常設展についての評ということなのですが、セザンヌの絵について書いています。
(念のために書けば、高松次郎展を「あえて」外しているわけではないです。そもそも原稿の締切が1日だったから、2日からはじまる高松展について書くことは物理的に無理です。)
●「WIRED」の新しい号(死の未来)がやばい。カルチャー誌を興奮しながら読むことはずいぶんと久しくないことで、おそらく十数年ぶりとか、そのくらいのことではないか。
(特集「死の未来」の最初に、ペンローズとハメロフのいわゆる「量子脳理論」についての記事が出ているのだけど、これってすごく面白いのだけどぼくの知る限りでは一般的にあまり評判のよくない説とされていて、『ペンローズの〈量子脳〉理論』という本を出してこれを紹介している茂木健一郎でさえ、「波動関数の客観的収縮と意識の関係」という基本的な方向性に賛同しつつも、「脳の微小管がマクロな量子状態を実現し得る構造になっている」という話には無理があり、でもそれはペンローズが偉大な数学者ではあっても脳や生物学に詳しくないから仕方ないか…、みたいなニュアンスで書いていたと記憶しているのだけど、それは九十年代の終わりくらいのことなので、その後、最近になって「量子脳」説に対して有利になる、風向きが変わるような研究の進展なり発見なりが何かあって、この記事になっているのだろうか。そこらへんのことはあまり詳しく書いていないのだけど……。もし、この理論がけっこう有力だということになると、いわゆる「心身問題」に関して、いろいろな意味でパースペクティブがひらけるように思われるのだけど。)
●「量子マーケティング」についての記事もある。すごく面白いのだけど、これって要するに、レヴィ=ストロースのやった神話分析の、数学的にもう少し高度なバージョンという風に考えていいのだろうか。ここで「量子」の意味は、量子コンピュータを使うというのではなく、波動方程式を使うということ。
(鈴木一彦へのインタビュー構成)
《Scanamindを簡単に説明すると、ある手法によって無意識の断片を多数収集し、それを波動方程式という量子力学の数理を使って検算し、結果をもとめるシステムです。》
《わたしたちはコンサルティングではなく、データを可視化するところまでが仕事なので、同業他社のデータを並行して扱うことが往々にしてあります。あるとき、とある業界におけるトップ3社のデータを解析していたのですが、持ち込まれたデータも解析結果を求めている理由もまったく違うのに、データが示した構造が非常に似ているという奇妙なことが起こったんです。研究の結果、そこで示されていたのは「とある業界」がもたらす「価値の基本構造そのもの」だということがわかりました。そのとき、これって量子力学における「非局在性」に似ているなと気がつき、だったら波動方程式を使って、概念そのものの成立メカニズムを可視化できるはずだと考えたんです。》
《以前、自動車のコンセプトを可視化してみようと考え、2000年12月に国産メーカー10数社のホームページへ行き、計174台のコンセプトを調べました。各コンセプトを「形態素解析」という方法でぶつ切りにし、そのぶつ切りの一語一語をψを求めるための「作用素」とします。あとはそれを波動方程式に入れて検算するだけです。すると、全体における各ワードの位置、ひいては各クルマの位置がわかります。いうなればクルマの位置が原子核の位置で、ワードが広がっている範囲が、電子が飛ぶ範囲なんです。》
《ある「作用素」にカンパリを入れたら、カンパリソーダになりました。次にウイスキーを入れたら、ハイボールになりました。レモンを入れたら……、レモンスカッシュになりますよね。この場合の「作用素」とは炭酸水過給器です。(…)「作用素」にあるものを入れると、「作用素」と同じ炭酸水が出てくる場合がごくたまにあります。それは炭酸水を入れたときです。この、入力と出力が同じになったときのことを「固有状態」といい、それがψなんです。この「固有状態」の探求こそが、量子力学の目指すところだといえるでしょう。なぜなら「固有状態」こそが「作用素」の本質だからです。》
《これは言い換えると、「コンセプト文の本質(=固有状態)がわからないのであれば、コンセプト文を読むのではなく、コンセプト文に対していろいろ外から作用させ、変形しないものを発見できれば、それがコンセプト文の本質である」という話だと思います。》