ブルーバックスの『光と電気のからくり』(山田克哉)を読んだのだが、これは、ほとんど小学校レベルみたいな磁石と電気の話から、電場と磁場との関係、波の性質、アインシュタイン光電効果の話などを経て、量子論に不可欠な電子のスピンや角運動量の説明、量子ジャンプなどの話までが、「具体的にどう繋がっているのか」ということを、すごく丁寧に分かり易く説明してあって、「文系のためのいまさら人に聞けない現代物理の基本」みたいな本として素晴らしいのではないかと思った。なんとなくわかっている気になっていたけど、そういうことだったのか、みたいなことがたくさんあった。
(簡潔な文章で淡々と進みつつも、「大事なことは分かるまで何度でも言いますよ」的な繰り返しがとても親切で、助かる。)
つづいて、同じ著者の『量子力学のからくり』を半分くらいまで読んでいるのだけど、こちらはさすがに『光と電気の…』に比べるとずいぶんややこしい話になっているし、数式などもかなり出てくるのだが(とはいえ、最も単純な式が示され、それが何を表現し、それをどう読めばいいのかが丁寧に説明されている)、時間をかけて考えながら読めばある一定の理解は得られるように書いてある(この本を読むために、『光の電気の…』で得た知識が大変に役に立つ)。この著者の本はもう少しつづけて読んでみようと思った。
●以下、引用は『量子力学のからくり』から。実体のない波、電子波(物質波の波動関数)について。この、確率こそが実在みたいな不可解な感じがたまらないのだが…。
シュレーディンガーの式を解くと電子波Ψが得られます。このΨが電子の波動関数となるのです。(…)シュレーディンガー波動方程式は、場所(x,y,z)と時間tが変わる(時間は確実に変わります)と波動関数Ψがどのように変化してゆくのかを決める方程式です。≫
≪ところでここで大変奇妙なことが起っているのです。シュレーディンガーの方程式を解いて得られる波動に必ず虚数√−1が入ってくるということです。波動関数Ψにこの虚数が入り込まない限り、アインシュタインの関係式(E=hf)とド・ブローイの関係式(λ=h/mv)が同時に満たされないのです。虚数の入っている関数は複素関数と呼ばれていますので波動関数複素関数となります。虚数の入っている波動関数は観測不可能です。≫
(通常の音波や電磁波などの観測可能な波動関数波動方程式――シュレーディンガー波動方程式とは異なる――を解くことで得られ、そこには虚数が含まれる。しかし、日常的に観測できる波の場合、実数部分と虚数部分とを切り離すことが出来て、その実数部分が観測される波であるが…)
≪実数部分と虚数部分とが結合された波(波動関数)だけがシュレーディンガーの方程式を満足するのです。この波動関数はそのような構造になっているのです(空間座標に対して二階の微分、時間に対して一階の微分)。(…)虚数を取り外すと量子条件の一つであるE=hfを満足しなくなってしまうのです。≫
(E=hfの、「h」はプランク定数で「f」は振動数)
≪エネルギーが振動数に比例するということだけでシュレーディンガーの方程式を解いて得られる波(波動関数)に虚数が入り込むことはどうしても免れないことなのです。≫
≪しかし虚数が入っていても、その波は回折現象や干渉現象を起こします。物質粒子(物質を持つ粒子)に対する波は物質波(matter waves)と呼ばれています。また、観測できないけれど観測に関わる確率を表わすので「確率波」とも呼ばれています。物質波あるいは確率波は観測できなばかりか、観測しようとすると変化したり消滅したりします。元々見えないものが消滅するとはおかしな言い方ですが、消滅して、観測される何か(例えば粒子)に変容してしまうのです。≫
≪もうひとつ奇異なことは、波は「振動が伝わる現象である」ということを思い起こしてみると、電子波(電子の波動関数)はいったい何が振動しているのか(何が揺さぶられているのか)わからないということです。およそ波というものは空間に広がりをもって存在します。電子は点粒子で空間に広がりなど持っていませんから電子自身が振動する現象が電子波なのではありません! では何が振動して出来るのが電子波なのでしょうか? 誰にもわかりません。波動関数は電子の振動性を単に数学的に表しただけに過ぎず、実体のない波ということができましょう。しかし実体のない波でも二重スリットの実験などの実験結果を巧妙に説明します。≫
≪知り得るのは、虚数の入った物質波を使って粒子の存在確率に代表される確率を計算できるということです。また物質波を使ってスクリーン上に現れる回折縞や干渉縞の明るさも計算できます。≫