●選挙があるたびに、投票率が上がれば、特に若者の投票率が上がれば何かが変わる、みたいなことを言う人が出てくるけど、でも、現在の「選挙」という制度について疑問を呈する人はあまりいない。「選挙」なんていう粗い制度で、重要なことを決めてしまっていいものなのだろうかという疑問を持った方がいいんじゃないかと思う。
制度のどこをどう変えると、何がどの程度変わるのか、というような、具体的な話をもっとした方がいい。実際に変更するのは困難で、それが結局フィクションにすぎないのだとしても、そのような「別のやり方があり得る」ということを知るだけで、人の考え方はもっと柔軟になると思う。「別のやり方があり得る」と思えないからこそ、世界は変わらないのだと思うようになる。
「多数決」を信じてはいけない:『「決め方」の経済学』坂井豊貴が語る、選挙・民意・制度設計の科学(WIRED)。
http://wired.jp/2016/10/15/toyotaka-sakai/
《──(…)やはり「誰を支持するか」と1人だけを聞いても細かなことはわかりませんか。》
《そうですね。「計算箱」でいうとインプットが少なすぎるんです。「誰を1位に支持するか」だけでなく、「その次に誰を支持するか」までインプットする。インプットが豊かだと、豊かなアウトプットが出せるんです。例えば「決戦投票付き多数決」なら誰が勝つか、順位に配点する「ボルダールール」なら誰が勝つかなんてこともわかる。選挙方式によって当選者が変わりうることも、世論調査でわかってきます。》
《──そう考えると現行の選挙制度って、とにかくきめが粗いですよね。》
《単なる1回だけの多数決ですからね。手間暇はいちばんかからないんですよ。そのメリットのためだけに、ほかのメリット、とくに人々の意思を丁寧にすくい上げることを、すべて犠牲にしている。こんなに原初的なやり方が使われているのは、選挙だけではないでしょうか。株式や金融証券なんて、かなり昔からオンラインで複雑な取引が高速でなされています。数年に一度、投票所に足を運んで、投票用紙に1人だけの名前を記入するなんて、21世紀の出来事とは思いがたい。》
《──いろいろとオルタナティヴな選挙方式が世には存在しているのに、それが採用されず、古色蒼然たる制度がいまもって存続しているのってなぜなんでしょうね。何か明確な理由があるんですか?》
《主な理由は、2つあります。ひとつは、小学校で当たり前のように多数決を使ったり慣れさせたりして、オルタナティヴを教えない。先生方もそれは詳しくないだろうから、知識の普及に努めるのが大事だと思っています。もうひとつ、政治家は現行制度を変えたがらない。なんせ自分を当選させてくれた制度ですから。特に、与党を構成している議員たちが、変えたがらないのは当然のことです。》
《何にせよ、選挙制度を変えるには、公職選挙法を変える必要があります。そして、国会は唯一の立法機関であると憲法41条で決まっているので、公職選挙法を変えられるのは国会議員だけ。でもそれは、なかなか実現しない。》
《──たしかに。そりゃそうですよね。しかし、これ、大問題じゃないですか。》
《おっしゃる通り、大問題です。これは統治機構の「設計ミス」だと考えています。世界中の多くの「民主主義国」で起きている設計ミス。この修正案が必要ですが、公職選挙法という特別な法律をつくる権力をどこに置いて、その権力をどう管理するかという国制の根本に関わる問題だから、憲法マターでしょうね。》