2021-01-06

●VECTION(西川アサキ + 古谷利裕 + 掬矢吉水 + もや)というグループに属していて、VECTIONとして2019年に「ミラーバジェットから弱いアナーキズムへ」というテキストを発表している。

https://vection.world/mb2wa.html

ここで、集団的な意思決定における「多数決の欠陥」を補正する方法のひとつとして、仮に「一致率投票」と呼ぶ投票のシステムを紹介している。詳しくは上のテキストを読んでほしいのだが、簡単に言えば、自分が正しいと思う回答に投票する時、同時に、自分と同じ回答に投票者全体の何パーセントくらいの人が投票するのかの予測を添えて投票するというものだ。

例えば、「フィラデルフィアペンシルバニア州の州都か?」という問いでは、「yes」という答えが多数派となった。ところが答えは「no」(実際の州都はハリスバーグ)なので、多数決ではこの問いに正しく答えられないことになる。多くの人が間違った思い込みをしている(バイアスがある)ような場合、多数決では適当な答えにたどり着けない。

ここに、どのくらいの人が自分と同じ投票をするかという問いを付け加える。「yes」という間違った投票をした人は、この問題の難しさを知らないので、多くの人が自分と同じ投票をすると考える。しかしここで、「no」という正解を答えられた人は、この問題が人々が思っているより難しい(間違いやすい)ということを知ってもいるはずなので、自分と同じ投票をする人は少ないと予想するだろう。他者の投票との一致率予想が、判断にかんするメタ判断のように機能する。

《この事実を利用して、実際の投票結果より予想の方が低かった方、逆にいえば、予想より投票結果の方が高い割合を示した方の選択肢を「正解」として選ぶ(surprisingly popular algorithm)という方策が導けます》。

《この方策は、フィラデルフィアの場合なら、少数派の知識を選び、そもそも誰も答えを知らないような答えの場合は単なる多数決を再現するので、多数決や確信度を入れた投票の正解率を常に上回ります。》

(ここで興味深いのは、自分の投票にどの程度自信があるのかという「確信度」は役に立たないという点だ。正しい人も間違った人も、どちらも同じくらい自分の答えに自信をもっている。)

この投票方法はとても面白いし有効なのではないかと思っていたのだが、VECTIONのメンバーによる最近の議論のなかで、「でも、これだと陰謀論をリジェクトできないのでは?」という疑問が出た。陰謀論者は、自分の考えを強く正しいと信じているが、同時に、自分たちが少数派であることを知っている。だから、この方法で投票を行うと、髙い確率で陰謀論が「正解」という結果になってしまうのではないか、と。

2019年の段階では、陰謀論者たちの勢力が投票全体の結果を左右するほどに強くなるとは想定できなかった。陰謀論者はごくごく少数しかいないと思っていた。だけど、現時点ではそうとも言い切れない。

とてもよいシステムであるように思われる「一致率投票」において、「正解」と判定される確率が高いような形(一致率投票を良い点をハッキングするような形)をもって存在しているという点に、つまり、自分たちは真実を知っている(迫害された)少数者である、という形をしている(だが、実際にはマジョリティによるマイノリティ差別を肯定することになる)ことが、陰謀論というもののとてもやっかいな(否定するのが難しい)ところだと思う。

●ただ、「ミラーバジェットから弱いアナーキズムへ」というテキストにおいて「一致率投票」は話のマクラにおいた一例であって、重要なのは「市場の外部」を担う国家の機能を、選ばれた少数者(政治家やエリート官僚)が運営するのではない形で成り立たせるにはどうすればよいかについて考えることだ。議員代表制のような古くて粗くて遅いシステムではなく、かといって、直接民主制のような不安定で危うい制度でもないものはいかに可能か。それは、多様性のある集団の集合知をどのようにすれば最大限に引き出すことができるのかという問いでもある。単一的で統制のとれた集団よりも、多様性のあるバラバラな集団(の集合知)の方が結果として強い(様々な現実に対応できる)ということを示せれば、「リベラル」が存在可能となる。そしてそのためのアイデアとして、共有されたバーチャルな「ミラーワールド」と一人一人が各々「ミラーバジェット(国家予算)」をもち、それを介して「国家予算のストリーミング投票」をする、というのはどうだろうかという提案なので、できれば最後まで読んでいただきたい。

(VECTIONでは、近々このテキストの改訂版を公開する予定。)

https://vection.world/