2022/08/19

●最近、VECTIONで考えていることの一つに、何かしらの政治的主張を評価するときに、「Goals」「Condition」「Mechanism」の三つのレベルすべてについて検討し、それを掛け合わせて評価すべきではないかということがある。足すのではなく掛ける必要があるのは、三つのうちのひとつでもゼロであれば全体の評価がゼロになるからで、つまり三つの要素のどれか一つでも欠けていれば評価に値しないのではないか、ということだ(この点について、その理由について、最後に少し詳しく書く)。

「Goals」は、目標、目的、理念のようなもので、「Mechanism」はそこに至るための具体的な方法(政策や制度など)。「Condition」が少しわかりにくいかもしれないが、「Goals」と「Mechanism」とを媒介するもので、「Goals」を実現させるための条件であり、そこへ至る理路であると言える。

たとえばVECIONにおいて「Goals」は「PS3」として表現されている(Pain, Scalability, Sustainability, Security)。(1)苦痛の最小化、(2)持続可能性、(3)様々なスケールでの安定性、(4)セキュリティ。そしてそのための「Mechanism」として「苦痛トークン」や「ミラーバジェット」「マルチレイヤ―サイクル」などを提案している。だが、「Condition」に当たるものが必ずしも明確にされているとは言えないのではないか、ということになり、仮に、Vectionism:0.1(バージョン0.1だ)として「POTDDD」という下の六項目を考えた。

(1)    Pain:苦痛の総量を極限まで減らす

(2)    Overfit:オーバーフィッティングを限界まで減らす

(3)    Trial:トライ&エラーを極限まで軽くする

(4)    Decision:意思決定を可能な限り、集合的にし、かつ速く回す

(5)    Discretion:ルールの作成者・運営者の裁量を極限まで減らす

(6)    Death:死の恐怖を限界まで減らす

(ここで、「極限まで」「限界まで」と言っているのは、現実的に可能な限り、という意味だ。たとえば、苦痛がなくなって皆が楽しく暮らしているとしても、それによって生産性が閾値より低くなってしまえば持続可能ではなくなる。だから、現実的には苦痛を際限なくなくすことは可能とは思えない、ということ。)

「苦痛の最小化」が「Goals」と「Condition」の二つのレベルで共通したものとなっているが、たとえば「Goals」の一つである「持続可能性(Sustainability)」を実現するには、「Condition」としては(4)の「集合的な意思決定の速さと質(Decision)」が必要であり、そのための具体案(Mechanism)の一つとして「ミラーバジェット」がある、という構造になっている。

●以下、「PS3(Goals)」と「POTDDD(Condition)」の関係をざっと示すと、様々なスケールでの「安定性」のために(3)の「トライ&エラーの軽さ」と(4)の「集合的な意思決定の質」が必要であり、悪意ある他者の攻撃からの「セキュリティ」のために、(3)の「トライ&エラーの軽さ」と(5)の「運営者の裁量を減らす」ことが必要となる。(2)の「オーバーフィッティングを避ける」ことは、「PS3」のすべてに対して有効だろう(今の日本はオーバーフィットだらけだ)。(6)の「死の恐怖の軽減」にかんしては、これがそもそもVECIONというグループの当初の目的であり、我々にとっては「Goals」でもあるのだが、政治的な主張としては、「苦痛の最小化」に寄与するものだと言えるのではないか。目的(Goals)へと至るための条件・理路(Condition)を以上のように考えること(その思想)を「Vectionism:0.1」と呼ぶ。

●また、「Condition」と「Mechanism」の関係を示すと下のようになる。

(1)    Pain:苦痛の総量を極限まで減らす

→苦痛トークン、投票のみSNS大麻解禁

(2)    Overfit:オーバーフィッティングを限界まで減らす

→仮想政府、Bot議員、ミラーバジェット、苦痛トーク

(3)    Trial:トライ&エラーを極限まで軽くする

→仮想政府、Bot議員、ミラーバジェット

(4)    Dicision:意思決定を可能な限り、集合的にし、かつ速く回す

→投票のみSNSBot議員、ミラーバジェット、苦痛トーク

(5)    Discretion:ルールの作成者・運営者の裁量を極限まで減らす

→マルチレイヤ―サイクル、投票のみSNS、ミラーバジェット、あらゆる分散化・公開・自動化の技術

(6)    Death:死の恐怖を限界まで減らす

ターミナルケアLSDVR

「苦痛トークン」「仮想政府」「ミラーバジェット」「マルチレイヤ―サイクル」といったアイデアについてはVECTIONのサイトに各テキストへのリンクがあります(Bot議員についても、近くテキストをアップする予定。)。

vection.world

以上のようにして、「Goals」「Condition」「Mechanism」を挙げることによって、たとえばVECTIONというグループの考える方向性(の最低限)を示すことができるのではないか。

●で、冒頭に戻って、なぜ「Goals」「Condition」「Mechanism」の三つを掛け合わせて評価する必要があると考えるのか。

まず、VECTIONのメンバー全員がある政党のホームページをみてショックを受けた、という事実がある。これ、騙されちゃうよね、と。そこには、「Condition」や「Mechanism」のレベルで、口当たりのよい、なんとなく良さげなことが書かれている。下手をすると、VECTIONともかなり共通するところがあるようにさえ見えかねない。しかし、少し注意深くみてみると、「Goals」のレベルにかなりヤバい思想が隠されている(「Condition」や「Mechanism」のレベルでも、「えっ」というヤバげなやつがチラチラッとはあるのだが、注意深くみないと見逃しがちだ)。つまりこれは、自分たちの思想がヤバいことを自覚していて、それを入り口からは見えないように、奥の方に巧妙に隠しているということだ。デザインもなんとなくふわっと柔らかくて、人も皆やさしそうな表情をして写っていて、好感をもちやすい感じになっている。

幸いなことに、この政党の危険性については既に多くの人が指摘している。しかし、「ホームページの感じ」だけで判断するならは、これは騙されちゃうなあ、という強い危機感をもった。だけど、「Goals」「Condition」「Mechanism」の三つのレベルをちゃんと意識するならば、「Goals」の明らかなヤバさに、多くの人は気づくのではないか、と考えた。

このことかから、この件に限らず、政治的な主張において、「Goals」「Condition」「Mechanism」という三つのレベルのどこか一つを意図的にぼやかすことで人を騙して丸め込もうとするということが、実はけっこう頻繁に行われているのではないか、とも考えた(たとえばスローガン=Goalsのレベルでは口当たりがよいが、「Mechanism」のレベルが曖昧であやしい、とか)。そのような詐術にやられないためには、三つのレベルそれぞれをすべて意識的にみる必要があるのではないか。

また別の話だが、技術的な開発や制度の研究などを専門的にやっている人は、その技術が、一体何に対して作用し、どのような可能性をもっているかについて十分に考えていない場合もある。

たとえば、現在の選挙制度と同等の信頼度を保ったまま(スマホからでも投票できるような)電子投票システムをつくることは、技術的に大変に難しいとされる。その壁を突破するのは技術的にはとても大きなことだと言えるだろう。しかし、それが実現されたとしても、現在の選挙制度そのものを見直さない限り、若年層の投票率が多少は上がるかな…、くらいの変化しか期待できない。

その「大変な技術(Mechanism)」が、社会をどのように変える可能性をもっているのかについて考えるためには、「Goals」や「Condition」のレベルでのビジョンから降りてくる「Mechanism」に関するアイデアが必要になってくると思う。

(たとえば、電子投票によって選挙=投票のためのコストが大きく抑えられるので、頻繁に---極端に言えばストリーミング的に---「投票」を行うことができるようになる。これによる変化は大きいはずだ。というところから、苦痛トークンやミラーバジェットという話になる。)