2020-11-04

●人の脳をクラッキングしてその思考を破壊するウィルスとして、陰謀論歴史修正主義とでは、どちらがより厄介なのだろう。大統領選挙にかんする情報を追っていて、有名なQアノン以上にヤバい陰謀論に突き当たってしまって、頭を抱えている(怖すぎるので具体的には書かないが)。これはアメリカの問題ということではない。検索したら日本語のサイトや動画もヒットした。オカルト的陰謀論は、多くの場合、最新の学説や科学技術(科学技術の中途半端で間違った理解)と結びついている。陰謀論者の暗躍を、陰謀論的に妄想してしまう。

(陰謀論は、誰もが感染し得る危険なウィルスであって、陰謀論者をただ悪として非難すればよいというものではないと思う。)

(現実的には複雑な問題に簡潔な解答を与えてくれるので、不安な人がそれにとびついてしまう、というような陰謀論についての説明は十分とは思えない。常識的な理解---表---とは異なる隠された秘密---裏---があること、そして、それを知っているのが迫害された少数者であること。そして、その理路に独特のオカルト的平板さがある---現実的な厚みが失われている---こと。そのような形の物語がもつ、抗いがたい引力があるように思われる。)

(陰謀論に感染してしまう人と、感染を意図的に拡大させることで利得を得ようとする人とは---悪の度合いとして---分けて考える必要がある。)

陰謀論は、現状に対する危機意識をもつ人が、ほんらいならノイズとして処理すべき小さな揺らぎを徴候のように拾ってしまい、そこに過剰な意味を見いだすことから始まるように思う。そして、小さな疑惑が、一つの世界観=体系を要請し、発展して、そのまま固着化してしまうのではないか。故に、繊細なアーティストのような人こそが陰謀論に弱かったりするだろう。陰謀論へのセキュリティとしては、できるだけ広く、多角的に情報を収集するということくらいしか思いつかない。しかし、陰謀論が「最新の情報の中途半端な理解」によって組み立てられていることが多いことを考えると、そして、陰謀論の否定が、「常識的に考えておかしいでしょう」ということ以上のところでは、悪魔の証明のように困難になってしまうことも考えると(ファクトチェックのファクトチェックのファクトチェック…、と懐疑は原理的にはどこまでもつづく)、常にアンテナをはり、常識にとらわれずに自分の頭で考える人だからといって、陰謀論を避けられるとは限らない。

(むしろ、「そんなこと常識的にありえない」といって、それ以上の情報収集も思考も打ち切ってしまうような、凡庸で常識的な人こそが、陰謀論に強いのかもしれない。)

陰謀論に対する有効なワクチンはありえるのか。一つの方法として、陰謀論の意識的な摂取によって免疫をつけるということを考えることができるのではないか。陰謀論が、人の脳にとって、障壁を乗り越えて侵入してくる抑えがたく魅力的なものなのだとしたら、日常的に、頻繁に、陰謀論的なフィクションを娯楽として摂取することで、陰謀論独特の「ヤバめ香り」を味わい、それを鋭敏に察知できるようになり、陰謀論にガチで入り込むことなく、あくまで距離をとって警戒しつつ、(フィクションとして)楽しむことができるようになる、とか。

それでも、ミイラ取りがミイラになることはあり得るが。

(陰謀論者においては、おそらく常識的な現実の基盤への信頼が崩れているので、そこに常識、論理、ファクトのようなものをあてても効かないのではないか。)