●Huluでなんとなく小津の『早春』を観ていたら、池部良が上司(中村伸郎)から転勤を打診される場面の背景音として、公園で子供たちが遊んでいる時のような笑い声が入っているのが気になった。場所は、都心のオフィス街のビルの、しかもおそらく上の方の階なので、自然主義的に考えれば、そこでそのような音が聞こえているというのはおかしい。
池部良淡島千景の夫婦には、流産したか、あるいは幼くして亡くした子供がいたらしいこと、そしてその子供の命日を池部良が忘れていて、軍隊時代の戦友と遅くまで飲んで、淡島千景が一人で命日の墓参りに行ったこと。さらに、池部良がいつもつるんでいる、おそらく学生時代の友人グループのうちの一組のカップルに、どうやら子供ができたらしいこと。つまり、映画には、既になく、そして未だない、「子供」の気配が不在のまま漂っていて、おそらくそれが、そのような音として顕在化したのだろう。
で、ここから堀禎一の『草叢 KUSAMURA』や『夏の娘たち〜ひめごと〜』にも、同様に不自然な背景音として「子供の笑い声」があったことが想起されて、少ししんみりした。
●おお、榎戸耕史の新作が。『やがて水に帰る』予告編。前田亜季の顔を観ると、『魔法少女を忘れない』を思い出してしまう。
https://www.youtube.com/watch?v=bsipbV6UzBo
ていうか、榎戸耕史って、今、桜美林大学の教授なのか。
http://www.obirin.ac.jp/topics/info/year_2017/7fl2960000096sf6.html
●「日経サイエンス」を読んでいたら、興味深いというか、残念なというか、予想通りとはいえ予想以上、というような記事があった。以下、「日経サイエンス」2017年7月号の「陰謀論を増幅 ネットの共鳴箱効果」(W.クアトロチョッキ)という記事から引用。
《私たちは2014年、ソーシャルメディア上の根拠のない主張が広がるのを正す取り組みを調べ始めた。誤りを暴くと効果があるだろうか。それを調べるため、陰謀論ニュース読者が虚偽暴露キャンペーンに接した後にも陰謀論情報を閲覧し続けるかどうか、その「持続性」を測った。がっかりさせる結果(論文発表を準備中)が出た。虚偽暴露キャンペーンに接した人は陰謀論ニュースを読み続ける確率が30パーセント高まった。言い換えると、あるタイプのユーザーの場合、情報の虚偽を暴かれると、当人の陰謀論への思い込みがむしろ強まる。》
《米国にいるフェイスブックユーザー5500万人を調べた研究でも同様のダイナミクスが観察された。ユーザーは自分の既存の信条を支持する情報を好んで閲覧し、その情報を広くシェアすることによって、認知的不快を避けている。》
論理的、理性的な説得や説明は逆効果だ、と。で、みんなでシェアして「認知的不快を避けている」、と。そしてこの感じは、別に陰謀論とか極端な政治思想とかを持つ人に限らなくて、人間はだいたいみんなこんなもんなのだとも思う