2022/07/09

●下の記事が、VECTIONのミーティングで検討された。重要な記事だと思う。「オンライン投票はなぜ『難しい』のか」

zenn.dev

VECTIONが提案しているアイデアは、「ミラーバジェット」にしろ「苦痛トークン」にしろ、オンライン投票が可能であることを前提としている。だから、現時点で、オンライン投票を実現するためにどのような技術的ハードルがあるのかという点を知ることは、とても重要なことだ。

ただ、現状の選挙制度が維持される限り、仮にオンライン投票が可能になったとしても、若年層の投票率が多少は上がるかも…、くらいのメリットしかないのではないかという意見もあろう。しかし、オンライン投票が可能になることによる変化は実はとても大きい。最大の利点は、いったんオンライン投票が可能なインフラが整備されてしまえば、「選挙をする」ために必要なコストがとても低くなるということだ。つまり、コストがかからないので頻繁に選挙を行うことができるようになる。

たとえば、参議院では、三年に一度、議員の半分が入れ替わる選挙が行われる。半分まとめて入れ替わるので、その時の空気や世相や雰囲気や勢いなどが、ものすごく大きく作用してしまう(そしてその影響が、次の選挙まで三年にもわたってフィックスされてしまう)。また、天気が悪いだけで投票率が下がる、というようなことも起こる。でもこれを、毎月選挙があって、(議員の任期は変わらないとしても)ひと月に数人くらいずつ入れ替わるという風にすることが可能になる(もちろん、そのためには法律を変える必要があるが)。

今月は神奈川選挙区の選挙があり、来月は福岡選挙区、その次は北海道…、という風に、毎月どこかで選挙がある。そうすると、一時の勢いのようなものの影響は限定的なものになる。それに、たとえば報道などで取り上げるときも、全国まとめて(注目の選挙区だけ)報道されるという粗さを回避できる。衆議院の場合は解散があるので、選挙を分散的に行うのは簡単なことではないのだが。

これは、きちんと考え詰めたものではなく、たんなる思い付きだが、とにかく、コストが下がることで頻繁に選挙ができるということによって生じる「可能性の幅」はとても大きいと思われる。これは、国政選挙のレベルにとどまらない。むしろ、地方の、市区町村レベルの行政においてこそ、オンライン投票のきめの細かさが生きてくる場面が多いと思われる。また、公的な選挙にとどまらず、アンケートや世論調査に使うこともできる。世論調査から国民投票まで、同一のインフラを使って行うことが可能になるだろう。

とにかく、選挙や投票を、一時的な祭りや盛り上がりから遠ざけることは、とても重要なことではないかと、VECTIONでは考えている。究極的には、いつでも、どこでも、なんどでも投票できる、ストリーミング投票がいいのではないかと考える(なんどでも、というのは、一人で何票もということではなく、投票先を何度も変えられるということ)。

VECTIONが考えているのは、思想というより制度の設計で、どのような制度であれば、より民意を繊細に拾い、より不正や癒着を起こりにくくでき、権力の集中を抑制できるのか、である。VECTIONに思想があるとすれば、たとえそれがいかに優れたものだとしても、特定の勢力や人が、強い権力を長期にわたって持つのは危険だということだ。敵は、思想のいかんにかかわらず、カリスマであり、独裁者であり、強いリーダーであり、長期政権である。政治をどの程度まで、特定の政治家の力量や思想に依存せず、集合知へと開くことができるのか。外交や軍事など、機密事項が多かったり専門性の高かったりする分野もあるので完全に開く(属人性を排する)のは無理だとしても。

(属人性を排すること、分散化を行うこと、それものものが目的だということではない。問題は、過度な権力の集中・固着とカリスマの生成をどう防ぐのか、だ。)

(集合知は合議や熟議とは異なる。話し合ってしまうと、口のうまいやつ、押しの強いやつ、頭の回転の速いやつ、容姿が優れたやつ、そして、権威を持つやつなどに、言いくるめられてしまう。場の空気が作用し、コミュニケーション能力と権威のバイアスが強く効いてしまう。沈黙の声を聴くためには「秘密投票」であるということが重要になる。たとえば、「苦痛だ」と言いたいとき、「なにが苦痛だ」「なぜ苦痛だ」と問い詰められるかと思うと、口を噤んでしまうかもしれない。「けっきょくそれは君の問題なんだよ」と言いくるめられるかもしれない。「なんだかわからないが、とにかく苦痛なのだ」と遠慮なく言うために、秘密投票が有効だ。)

(とはいえ、実際に制度を変えるのは簡単なことではない。以前、柄谷行人が、最終候補までは選挙で絞って、最後は、決戦投票ではなくくじ引きで決める、というやり方を提案した。これは、権力の過度な集中や長期化を抑制するだけでなく、不正や癒着や根回しを防ぐために、有効性が高く期待できるだけでなく、すぐにでも実行可能なくらい簡単な方法なのに、本気で採用したという話は聞かない。)

(マイノリティが自らの権利を主張するというような場合は、投票や統計では負けてしまう可能性があるので、それとは別の政治---見えていないものを見えるようにする政治---が必要であろう。)

(この文章は、主語が「VECTION」となっていても、ぼくが一人で書いているので、他のメンバーがみたら「それはちょっと…」という部分もあるかもしれません。念のため。)

vection.world