2021-12-09

●『パンツの穴 キラキラ星みつけた!』(鎮西尚一)に出てくる旅館には、踊り場があって一階ターンする内階段と、一直線に降りている外階段の二つの階段があり、二階部分で、内階段と外階段の間を、両側にドア(客室)のある一本の廊下がつないでいる。その廊下と客室のちょうど真下の、一階部分は大きな広間のような空間になっていて、大きなガラス戸で外がよく見える。そして、外階段の先にはブランコがある。

この二つの階段とそれを繋ぐ二階の廊下とブランコで、この映画の多くのことが起きる。

内階段では、浅野忠信と(おそらく) 遠藤美佐子との運命的な視線のぶつかりがあり、毛利賢一が西野妙子に「好きだ」と言う。内階段では、見下ろす視線と見上げる視線との切り返しによって出来事が生じる。外階段では、広田玲央名が「ダニー・ボーイ」を歌いながら下っていったり、西野妙子がブランコで眠っている毛利賢一を見ていたりする。廊下では、毛利賢一と西野妙子が言い争ったり、西野妙子広田玲央名が言い争ったりと、言い争う場面が目立つが、廊下をごろごろと転がる毛利賢一を西野妙子がぴょんと飛び越えたりする仕草もみられる。

二つの階段を上り下りするこの映画(この旅館)で、一度だけ、二つの階段以外の上下運動があり、それがこの映画のクライマックスでもある。

合宿の最終日の夜、テニス部の女の子たちが全員で一階の広間で「銀座ジャングル娘」を歌って踊っている(この場面が本当にすばらしい)と、そこに、義母(広田玲央名)と一足先に帰ったはずの西野妙子が旅館に戻ってくる。旅館は既に取り壊しが決まっていて、建物の前にはブルドーサーとクレーン車が置かれている。テニス部の女の子たちは歌いながら内階段で二階へ昇っていく。同時に、西野妙子は毛利賢一が操作するクレーン車で中空へと昇っていくのだ。クレーンで宙に浮く西野妙子は毛利賢一に向かって「わたしのことが嫌い? わたしもわたしが嫌い」と言い、対して毛利賢一は「女心は複雑だな」とおどけたように返し、西野が「わたしに言わないでよ」と言って毛利の方を向いていたのがくるっと反対を向く(高低差のある対話だが、ここでは切り返しではなく二人は一つのフレームに収まっている)。

クレーンはゆっくり移動し、西野は建物の二階にあるバルコニーと対面する。そこへ、二階に昇ってきたテニス部の女の子たちが、歌い踊りながら、三つある二階の客室に別れてなだれ込んできて共通のバルコニーに出て合流する。そのまま、西野とテニス部員たちは対面で歌い踊る。この部分のテニス部員たちの歌声は(昨日の日記に書いた) 広田玲央名に促されてみんなで歌われる「ダニー・ボーイ」とは異なり、とても統一感のある(アイドルっぽい)ユニゾンで歌われ(プチ・ミュージカルとも言えるこの映画で、歌が「ちゃんと」歌われているのはこの場面だけかもしれない)、対面していることで西野が一人際立っているのだが、それでも一体感がある感じになっている(そして最終的には西野も他の部員たちと同じ方向を向く)。

この映画ではいくつもの出来事、様々な年齢や立場や事情の人たちが重なること無くバラバラに配置されているのだが、最後は、「若い女の子たち」と表現されるような統一感で閉じられるという傾向があるのだが、その統一感は「ワーオワーオ、叫びたくなっちゃった」と歌われるような、集合的な欲望の噴出のようなものだ。

(映画では、中心になる四人の女の子の「違い」がかなり丁寧に描かれているが、それらが最後のところで一つの太い流れにぐっと合流する感じ。)

(そしてその後の自転車の場面もまた素晴らしい。自転車により、統一感はまたばらけていく。この映画は優れた自転車映画でもあり、この映画の自転車の運動はこの後、堀禎一の映画に受け継がれていると思う。)

●「銀座ジャングル娘」の動画はニコ動にあった。

渡辺マリ/銀座ジャングル娘

https://www.nicovideo.jp/watch/nm16921079