2022/05/23

●U-NEXTに『我が胸に凶器あり』(青山真治)が追加されていた。懐かしい。観られてうれしい。96年か97年くらいにVHSをレンタルして二、三回観て以来だと思う。

96年に青山真治の映画は三本公開されていて、『Helpless』と『チンピラ』と『我が胸に凶器あり』だ。黒沢清も96年には「勝手にいやがれ!!」シリーズを四本と『DOOR Ⅲ』と一年に五本も映画をつくっている。翌年の97年には、青山真治が『WiLd LIFe』と『冷たい血』をつくり、黒沢清が『復讐 運命の訪問者』と『復讐 消えない傷痕』という傑作をつくっていて、このあたりがVシネマが最も熱かった時期だろうと思う。

(ぼくにとっても「青春」という感じだ。もう三十歳になろうという年だが。)

『我が胸に凶器あり』は、冒頭の「掴み」の部分がキレキレでかっこいいのだが、全体としては『チンピラ』ほどキメキメではなく、初期の青山真治Vシネマ作品群のなかでは、最もベタに(素直に)ジャンル映画を踏襲している感じで、それが結果として青山作品のなかでは異色作になっていると思った。クライマックスで、清水宏次朗菅田俊が(銃撃戦ではなく)思いっきり殴り合っていて、おお、青山真治がこんな場面を撮っていたのか、と。

(1)ヤクザからブツを盗んで逃げる女。(2)それを追うヤクザ。(3)ブツを確保する(押収する)ために女を保護する警察官。(4)ヤクザに雇われてはいるが、基本的に一匹狼のスナイパー。(5)闇のブックメイカー。基本として、逃げる女と警察官、追うヤクザとスナイパー、女が逃げ切れるかどうかの賭けを仕切る第三者的なブックメイカーという三つの立場があって、果たして女は無事に逃げ切れるのか、という単純なストーリーだが、五つの勢力が絡むことによって、やや複雑な進行になる。

警察官が女を連行するという形で逃避行(山越え)が始まるので、女と警察官は最初は敵対的だが、ヤクザとスナイパーから逃げるという共通の目的で次第に一体感がでてくる。対して、ヤクザとスナイパーの間には内輪モメが起って、これが逃げる側の有利に働く。女は無事に逃げ切れるが、ブツは警察が押収するので、身を危険にさらしたのに女には何の得もない、と思いきや、女は自分が逃げ切れる方に賭けていたので、多くの金を得ることが出来る。女は、スナイパーが遺した息子にその金で手術を受けさせる(スナイパーは、引退していたが息子の手術代のために今回の仕事を引き受けた)。

基本的には、めでたしめでたしだが、多くの犠牲も出ており、女が過剰に利益を得たという印象を残さないために、得た利益は善行に使う、という落しどころ。孤児となったスナイパーの息子は、きっとこの女が引き取って育てるのだろうという雰囲気で終わるので、観客は安心してフィクションの世界から離れられる。定型通りの進行に、たくさんの細かいアイデアが盛り込まれたかっこいい演出のジャンル映画。ただ、こういう仕事を沢山こなしてもなあ…、と青山真治は思ったのか思わなかったのか、これ以降は、Vシネマの仕事でも必ず何かしらの「こじらせ」を含ませるようになる。

主演の青葉みかという人、けっこう良い感じなのだが、検索してもあまりヒットせず、これ以外では石井輝男の『ねじ式』くらいしか映画には出ていないようだ。