2023/09/10

⚫︎『仁義なきヤクザ映画史』(伊藤彰彦)を読んでいると、U-NEXTのマイリスト、プライムビデオのウォッチリストが膨れ上がってしまう。配信で観られるものがけっこうある。

プライムビデオで『三代目襲名』(小沢茂弘)を観た。鶴田浩二の出ている『明治侠客伝 三代目襲名』(加藤泰)というタイトルの映画もあるので間違えやすい。

山口組の三代目、田岡一雄の自伝をもとに作られた映画で、登場人物のヤクザたちが基本的に実名。「ヤクザと戦後史」という観点ではとても興味深い内容(ヤクザと警察と戦勝国民と占領軍の関係については、掘れば掘るだけすごい話が出てきそう)だけど、映画としてはちょっと残念な感じ。ヤクザが不良外国人グループから警察署を守るというとんでもないエピソードなどもあり、題材としてはすごく面白いはずなのに、脚本のレベルでもっと練る必要があると感じてしまうくらいにとっ散らかった印象。あるいは、脚本の段階では、深作欣二的な演出を想定して書かれているのに、そういう演出ではないというところでチグハグになって、散漫な感じになってしまったのかもしれない。

実録シリーズは話が綺麗にまとまっていないのが面白いところだが、これではあまりにまとまってなさすぎる(終わり方が「俺たちの戦いは続く」エンドなのは実録モノなので仕方がないとして)。田岡と「戦勝国民」が対決する場面で、何の前振りもなくいきなり(あなた誰 ? という状態で)ジープに乗った菅谷政雄が颯爽と現れてまるっと収めてしまうというのは、あまりに強引な(ある意味、大胆な)作劇というか、ええーっ、となって脱力する。女浪曲師が出てくるのだけど、なぜ出てくるのかわからない、ただ出てくるだけという感じ(浪曲師の篠ヒロコが浪曲を披露する場面があって、明らかに吹き替えなのだが、見た目と声とのギャップがありすぎてデヴィッド・リンチ感が漂う)。山口組はのちに芸能事務所も立ち上げるので、続編があればその伏線になったのかもしれない。

ただ、立ち回りの場面などで見せる、四十代前半の高倉健の佇まいにはさすがにすごいものがある。

⚫︎本でも、昨日の対談でも、伊藤彰彦はこの『三代目襲名』の続きが作られるべきだったと言っている。この後、警察は本気で山口組を潰そうとし、それに対し田岡一雄は最後まで戦って、組を解散させなかった、と。この、公権力とヤクザとのガチの戦いを描く映画を、警察からの圧力に屈して、東映は作ることができなかった、と(逆に言えば、警察はそれを決して作らせなかった)。このことこそが、ヤクザ映画の描くべき本家本元の出来事であったはずで、それができなかったことが日本のヤクザ映画の大きな悔いとして残ってしまった、と。