●湿り気が多くてむっとする街中を歩いて駅へ辿り着き、ホームのベンチで額の汗をぬぐい、ホームから見える木々の緑と葉に反射する光を眩しく眺め、手でバタバタと顔に向けて風をおこし、やってくる電車を待ち、開いたドアから冷房の効いた車内に入って席に座ってほっとすると、急激に睡魔が襲ってきて、意識を失うようにすうっと眠りにおちてゆく。しばらくして目覚めると、電車はかわりなく動いていて、周囲にいる人が多少入れ替わっている。眠ることで意識の持続は中断され、ほんの少しの空白が差し挟まれるのだが、周囲の世界は連続して進行していて、わずかに違和感を感じながらも眠る前と滑らかに繋がっている。一度滑り落ちた世界に、空白が挟まれた後、ほんの少しだけ位置をかえて再び戻って来たのだった。このようなあたりまえのことを、冷房で適度な温度と湿度に保たれた振動しつつ移動する車内で、目覚めてすぐのぼんやりとした頭で、やけに新鮮なものとして感じていたのだった。