●夏の夕方。途中から座れたので、電車のなかでいつの間にか眠っていた。どこかの駅に着いた拍子にふと目を覚ますと、急病人発生、急病人発生、というアナウンスが流れ、車両がざわざわしていた。急病人はぼくと同じ車両にいたようで、駅員一人と乗客の男性一人とが折り重なる乗客たちのなかから姿をあらわし、一人の人を抱きかかえるようにして慌ただしくホームに降ろしていた。振り返って窓からホームを観ると、横たえられた中年の男性が、口から一筋の血を流し、目をむいて、ピクピクと痙攣していた。電車のドアはすぐに閉まり、動きだした。ぼくの正面に座っていた中学生くらいのカップル(今日は花火大会があるので、きっと一緒に行くのだろう、そういえば車内には浴衣姿の人も多い)が、二人とも立ち上がって窓の外のホームの方を眺めていた。
●部屋に着くと(駅からアパートまで歩く間、花火の破裂音がずっと聞こえつづけていた)、「映画芸術」の新しい号が届いていた。ぼくは「映画芸術」の最新号(412)に、ジャ・ジャンクーの『世界』についてのレビュー(「風景と情との乖離」)を書いています。(雑誌の内容は、「戦争のはじめかた」というタイトルの特集で、『亡国のイージス』の阪本順治のインタビューや、鎌田哲哉による『ヒトラー〜最後の12日間〜』のレビュー、そして岡本喜八・追悼などです。)あと、まだ少し先の話だけど、8月10日に発売になる「X-Knowledge HOME」という建築の雑誌に、記憶と住宅に関する短いエッセイ(タイトルは「祖父と便所」というもの)を書いています。もくじは「ここhttp://www.mediawars.ne.jp/~tairyudo/tukan03/tukan3417.htm」でみられますが、保坂和志による「家の記憶」や、岡崎乾二郎による「空き屋論・廃屋論」などもあって、けっこう面白そうです。興味のある方は是非読んで下さい。