ある日

●夜中の三時過ぎにふと目が覚めて、それからまったく眠れなくなってしまった。仕方がないので起きだして、昨日、渋谷のタワーレコードで買った『ぼくは12歳』(中山千夏高橋悠治)を聞いていたら、さらに頭が頭が冴えて眠れそうになくなってきた。『ぼくは12歳』に収録されている曲のうちの何曲かを、矢野顕子が『愛がなくちゃね』や『ブロウチ』でカバーしていて、それはもう高校生くらいの頃から何度も繰り返し聞いてはいるのだが、初めて聞いたのだけど、オリジナルの方が圧倒的に素晴らしい。中山千夏の唄を聞いていると、矢野顕子の解釈は基本的に間違っていたのではないかとさえ思えて来る。
●ぼくにとって安眠のための音楽はビル・エヴァンスで、特に、スコット・ラファロポール・モチアンとの有名なトリオの演奏を聞いているといつの間にか眠ってしまっていることが多い。(これは退屈だというのとは全く逆の意味だ。)で、少しは眠っておきたいのでそっちに切り替えて、『サンデイ・アット・ザ・ビレッジ・バンガード』を聴きだしたのだけど、それでも眠ることが出来ず、時間はもう既に朝で、テレビをつけて朝のワイドショーをだらだら観ていた。
●もういい加減、こんなだらだらしているのはやめて、眠れないなら起きてしまうか、もう一度だけ眠ろうとしてみるか、どちらかにしようと思っていた時に、テレビで、ある番組が終わり間際に、都内と千葉県の一部という広い範囲で停電しているらしいという一報を伝えた。なんとなく気になって、次の番組もそのまま観ていたら、局のお天気カメラが、信号の消えた交差点を車が走っているところを捉えた。(この画面はかなりインパクトがあった。)別の局では都心部をヘリコプターで空撮し、停電している地域の住人(テレビ局の関係者なのだろう)が電話で付近の様子をレポートしていた。停電は三十分以上つづき、テレビ局にもまともな情報は入ってこないみたいだし、東京電力でも原因を特定できないみたいだった。徐々に、何かが起きたのではないかという嫌な感じが高まってゆく。まあ結局は、旧江戸川の送電線をクレーン船が引っ掛けて破損させたらしいということにだったのだが(つまりテロとかではなかったわけだが)、そんなこんなを、ずっとテレビでタラダラ観てしまっていた。
●関係ないけど、その合間に市川崑の『犬神家の一族』の撮影の話題をやっていた。三谷幸喜がゲストで、宿屋の主人の役で出演した、とかそんな話題で、スタジオの中村敦夫(中村敦夫も出演しているらしい)が、この後また撮影なんだけど、と切り出し、監督が凄く力を入れて撮っていて、ベテランの俳優にも容赦なくダメ出しするし、セットや照明などにも凝っていて、スケジュールも一ヶ月以上伸びてしまっている、という話をしていた。今時こんな風に撮っている映画はないですよ、と。でも、テレビで流れた撮影風景を見る限りでは、セットの空間も照明の感じも、そして俳優の演技も、ほとんど前作とそのまんま同じことを繰り返しているだけ、という印象を凄く強く抱かせるものだった。だいたい、三谷幸喜のやっていた宿屋の主人の役は、確か前作では原作者の横溝正史がやっていたはずで、だとするとゲストの役の当て方まで、前作をほとんどそのまま踏襲しているだけじゃないかと思えてしまう。(どうでもいい話。)
●さらにどうでもいい話だが、今日の双子座の運勢は、テレビ朝日では二位で、フジテレビでは六位だった。
●それから、一時間くらい眠ろうと思ったのだが、目が覚めたら昼を過ぎていた。
●午後から出掛けた。電車の一番前の車両に乗っていたのだが、金属が擦れる高くて不快な音をたてて、電車が急停車した。同じ車両に乗っていた部活帰りの高校生の集団が、誰か轢いたのか、と騒ぎだし、いかにもそんな感じの停車の仕方だったと誰もが思っていながら口にするのをためらうことを、なんでそうあけすけに言葉にするかなあ、と、不快感を抱く。何人かの人が、余計なものを見たくないためなのか、日よけのブラインドを下ろした。車内には嫌な予感がもこもこと膨らみ、緊張しつつ、アナウンスを待つ。線路内に立ち入った人がいたため急停車しました。安全確認が出来次第、発車しますので、しばらくお待ち下さい。どうやら、人を轢いたのではなかったらしい。おそらく、人影が見えて急停車したのだろう。車内の嫌な緊張がふーっと緩む。時計を見て、チッと舌打ちするだけの余裕が生まれる。