●目が覚めた時からずっと、空が厚い雲で塞がれ、大雨というほどではないにしろ、しっかりと降り続くぞという感じの雨が降っている日にいつも、閉ざされた建物のなかにいて、ふっと襲われる感情がある。これを意識したのはまだ小学校の低学年のころで、朝から重たい雨が降るなか学校に行き、ずっと降り続く雨で、視覚的にも聴覚的にも、教室の中がその外から切り離されたというか、教室から外への通路が塞がれた感じで、あらゆる音が内側に向けてだけ響いているような、身体の外へと拡張された耳鳴りのような違和感が浮き上がり、それでも学校のいつもの時間が動き出すのでそれに巻き込まれて、雨降りの重たい気持ちも違和感も学校の時間の進行のなかに埋没しかけた、三時間目くらいの授業中に、ふと、この感情に襲われ、この感情を「耐え難い」と感じた。この感情は、不安とか寂しさと言い表すことの出来るものと近いのだが、もっと独自の感触をもつ、こういう日にのみ襲われる感情なのだ。小学生の頃には、この感情は堪え難いと感じる程に強いものとしてあって、自分がこの感情に押しつぶされてしまうのではないかとさえ思えるくらいのものだった。だから、重たい雨の日は朝から、このような感情にまた襲われるのではないかという恐怖を感じていた。今ではさすがに、この感情は堪え難いという程のものではなく、むしろ「親しいもの」としてさえ感じられるのだけど、しかし独自の感触は保ちつつ、回帰してくるのだった。