●夢の話。学校の図書室は広大で、生徒たちの多くはそこに住んでいるようなのだ。高い天井にまで届く背の高い書棚が街のような空間を作っている。床には、パチンコ玉くらいのものからサッカーボールくらいのものまで、大小様々で、プラスチック、ゴム、鉄、木など、素材も様々な球状のものがそこここに転がっている。転がっているというのは、たんに散乱しているというだけでなく、時々自動的にころころと転がり出すということだ。勿論、生徒たちが手に取って自由に転がしてもよい。ぼくは急な事情で今日を最後にそこを去ることになったようだった。だが、ロッカーのなかにはとても一日で持ち帰ることが出来ないくらいの私物が詰まっているはずなのだ。何度かに分けてちゃんときれいにするから、せめてあと一週間ロッカーを使わせてくれないだろうかと頼むのだが、あなたの代わりが早速明日から二人やってくるので(ぼく以外にもう一人やめる奴がいめらしい)、今日中にロッカーをきれいにして明け渡たしてもらわねばならない、それに、あなたは今日ここを出ると、二度とこのなかには入ることが出来なくなるのだと言われる。今、ポケットのなかにある「42」と書かれたロッカーの鍵となる木片(銭湯の下駄箱とかで使われているようなもの)を返してしまうとこことの関係の一切がなくなってしまうのだと、改めて思い知らされた形だ。途方に暮れながらとりあえずロッカーを開ける。縦長のスペースにみっしりと詰まった荷物の半分は、オフホワイトの麻で織られた何個かの大きな袋で占められていた。袋をひらくとなかに入っていたのは木製の立方体で、救急箱と書かれていた。これは学校の備品として寄付したということにしておこうと、そうしてしまっても問題なかろうと勝手に決めて、書棚の隅の目立たないところに積んでおくのだ。救急箱以外の私物は案外と大した量ではなく、スポーツバック一個のなかに(無理矢理にではあるが)納まってしまう。重たいが持てないというほどではない。ほっとすると同時に、ああ、もう二度とここに帰ってくることはないのだという強いさみしさに襲われて泣いてしまう。