2022/07/16

●『カルテット』、五話をU-NEXTで。前半の展開を観ているときは、このドラマにしてはやや凡庸なエピソードだなあと思ってしまった。強いて言えば、ここでカルテット「ドーナッツホール」が受けた挫折と屈辱は、松田龍平が、家族との関係のなかで常に感じているものと等しいということなのかなあ、と思いながら観た。まあ、中だるみということなのか、と油断してしまったが、しかし、終盤になってからのいきなりの緊迫した展開にとても驚かされた。

事後的に考えれば、構成として、まず、(挫折を通じてではあるが)ドーナッツホールのメンバーたちの結束が最も高まった瞬間(路上での演奏)があって、その後に、急降下するようにその関係の破綻がやってくるということなのだろう。

最後の十五分くらいは、このドラマの今までの流れのなかで、場面として最も緊迫した、最も強くこちらへと押し迫ってくる時間であろう。そしてこの場面の強さは、主に俳優たちの演技によって成り立っている。この、ドラマがはじまってから最も緊迫した、最も強い演技(演技合戦)が要求される場面で、その主役を張るのが、今までこのドラマのなかでは、高橋一生の好色エピソードを笑いに変えるために過度に誇張された感じの、どちらかと言うと副次的なキャラとして存在していた吉岡里帆なのだということの驚き。えーっ、そうくるの、と。

確かに吉岡里帆は、前回くらいから不穏な感じを醸し出していたし(満島ひかりにお金を借りる場面はかなりヤバかった)、もたいまさこの「使い魔」の役割が、満島ひかりから吉岡里帆へと移行したことも察せられた。おそらく、吉岡里帆は今後、松たか子をちくちくと嫌らしく攻めていくのだろう、くらいは予想した。しかし、今まで積み上げてきたものが一挙に崩壊する重要な場面で、これまで一歩引いて影に隠れていた人物がいきなり豹変して前面に出て役割を果たすとまでは予想がつかなかった。ちくちく攻めるのではなく、最初の一押しで崩壊まで押し切ってしまうのだ。ここで、サイコパスのように決して引くことなく押し続ける吉岡里帆をみると、ここまでの彼女の役柄が、笑いのために誇張されたものではなく、ベタであったのだと思い知らされる。

ここで、吉岡里帆のとにかく押しまくる狂気じみた演技と、一方的に押しまくられてどんどん内側へと縮みこんでいって、最後には崩れ落ちて涙をこぼす満島ひかりの演技によって作り出される緊張はとても強いものだ。ここで松たか子は、まったく嘘のない人物だと思っていた満島ひかりの自分への裏切りを突き付けられ、(松田龍平に騙されていたことを知った時に次いで)二度目の裏切りを受け止めなければならなくなる。

松への信頼を厚くするに比例して罪の意識も膨れ上がり、最後は爆発して崩壊する満島ひかりと、信頼していた人物からの度重なる裏切りで固まってしまう松たか子。この二人の関係は今後どうなってしまうのかという高い緊張を迎えたところで、このドラマはまたしても、この出来事を宙づりにしたまま、より強い別の出来事(失踪した松たか子の夫=宮藤官九郎が現れる)が生じて、展開はどうもそちらへ転がっていくみたいなのだ。

ここで、この緊張(嘘の露呈の行方)をペンディングにしたままで、夫の話へと移行するとか、そんな展開がありなのか、と。

思ったよりも弱めかなと油断して少しガードを緩めたとたんにボコボコに殴られた、みたいな回だった。