●『カルテット』、四話をU-NEXTで。高橋一生の背景が明かされる回。
ある問題が勃発する。だが、その問題が解決しないまま、より強い問題の発生によって話が別の方向へ展開するということがある。たとえば、一話で、イッセー尾形に対する態度から生じた、四人の考え方の違いによる対立=摩擦が調停不能と思われるほどに露呈したとき、その緊張を解決したのは、松たか子による「夫の失踪」の告白という、より強い事実の提示だった。より強い事実の提示によって、「考え方の違い」は、それに比べると些細なこととなり、対立=緊張は消失する。
同様に、四話のはじめに置かれるゴミ出しにかんする問題は、まったく解決することなく、Mummy-Dの乱入というより強い出来事によって消えてしまう。四人の共同生活における「ゴミ出し問題」から、高橋一生の背景問題へと、登場人物や観客の関心が移行する。
だが、この「ゴミ出し問題」は消えてしまうわけではない。高橋一生の背景にかんする主題に一通りの解決がついた後、「出されなかったゴミ」は、松たか子の東京のマンションへとそのまま転生し、あらたな展開の方へとドラマを動かしていく。出されることのないまま東京のマンションのベランダへと転移したゴミは、松たか子と松田龍平を東京へと導き、二話以来となる、二人の間の高い緊張状況を作り出す。
(そして、高橋一生の駅の階段からの落下と、松たか子の夫のマンションのベランダからの落下という、二つの落下によって、二人の間の結びつきが浮上する。)
二話における、五度目の出会いが偶然を装った策略だったことを明かした愛の告白(これは多分に満島ひかりの「嘘」に触発されたものだろう)は、松たか子の強い拒否と怒りに押し返されてしまったのだが(「ぬか喜びは悲しいよりなお悲しい」「捨てられた女をなめるな」)、ここで松田は、松による強い拒絶にあってもなお、さらに強く押していく(二つの感情がまじりあう、「愛しいは空しい」)。松田の感情は二話の時点よりもより強いものとなっているようだ。
(脱ぎ捨てられたままの夫の靴下は、朝食の場面で松が口にする「足の臭い美女」と遠く響き合う。)
だがここでも、二人の間に生じた抜き差しならない関係の緊張は、何かしらの「結果(押し切るのか、さらに強い拒絶があるのか)」を生むより前に、マンションの部屋への謎の第三の人物の侵入という、より強い出来事によってうやむやにされ、宙づりにされる。
(もちろん、この問題・感情・関係がここで消えるわけではなく、また別の形をとって浮上することだろう。)
(追記。高橋メアリージュンも、満島ひかりと同様、トイレのスリッパを履いたまま外に出てきてしまうような女性だった。二人は外見的にもキャラ的にもまったく似ていないが、つまり高橋一生は「そういう」女性が好きなのだった。満島ひかりは高橋一生に、なぜ偽の恋人役が松たか子ではなく自分なのかと問い、高橋一生は、彼女---高橋メアリージュン---はオレのことを知ってるからね、と答える。こういうセリフの切れ。)