08/01/10

●すこし前をお爺さんがゆっくり歩いている。腰が曲がって前屈みの姿勢で、両手は後ろにまわし、曲がった腰のあたりに置かれている。その手に、コンビニかスーパーの白いビニール袋をぶら下げている。ビニール袋は、お爺さんの尻あたりで振り子のように揺れている。ビニール袋の揺れは、お爺さんの動きによって生じているはずなのだが、お爺さんの動きの緩慢さに対して、袋はせかせかと忙しなく左右に振れている。その揺れには、遠くからずっと目がひきつけられていた。ぼくもゆっくり歩いているのだが、それでもだんだんと距離が詰まってきたのだ。ビニール袋は揺れている。この道はこのまままっすぐ行くと土手に突き当たる。おじいさんはふいに立ち止まる。止まると、曲がった腰がすっとのびる。手は腰から体の横へと移動し、袋は右手で持たれる。一息つくとまた歩きだす。歩きだすと腰が曲がる。手も元の腰の位置にもどる。そして袋が揺れる。
途中でお爺さんを追い抜いたか、あるいは、お爺さんは手前の角を曲がったのかも知れない。土手に着いた時にはお爺さんの姿はなかった。いつ、ビニール袋の揺れから目を(意識を)離したのか憶えていない。目の前には川と河原。天気のよいあたたかなお昼前の河原を、下流の方へと歩く。