●イベントとして特別上映されるcore of bellsの短編映画を観たかったということもあって、新宿K's cinemaへ『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』をもう一度観に行く。ロビーには人がいっぱい。満席で、観られなかった人もいるという。この映画は繰り返し観れば観るほど良くなっていく。
この映画は、大吟醸みたいに磨き込まれているのに、安ワインみたいにコップにドボドボ注いでガブガブと飲めるような気軽さがある感じがよいのだと思う。例えば、空から降ってくる巨大な南京錠とか、近藤さんへのリーサルウェポンとしてのピッツァとか、ほんの一瞬しか映らなくて、ちょっと気を緩めていると見逃してしまうのだけど、見逃したなら見逃したで、まあ、それはそれでいい、また次に観た時に発見してね、みたいな感じ。画面から一瞬も目が離せないくらいぎっしり詰まっているのに、「見逃してはならない」というような緊張を強いない。厳しく作り込まれていることと、緩いこととが、同時に成り立っている。
佐々木敦さんがこの映画について「心霊青春映画」と言ったということを監督から聞いて、ああ、そうかと思い、何度も観てようやく気付いたことでもあるのだけど、この映画の大きな魅力として、若者が充分に若者であるという点があると思った。中西と絢の若さが、この映画を支えているのかなあ、と。
ぼくはこの映画のチラシへのコメントとして、幸福な夢を見て目覚めた後の気恥ずかしさと、そんな幸福が自分には決してやってこないことの苦さを味わうような映画だということを書いたのだけど、その幸福というのは、中西と絢の若さのことなのかもしれないと気付いた。つまり、いい歳をしてこんな「若い二人」に反応してしまったことの気恥しさと、そのような若さが自分には二度とやってこないことへの苦さを、この映画を観ると感じるのかもしれない。
普段は、若者がうらやましいとか、若さが素晴らしいとはあまり思わないし、学生の頃とほとんど変わらない生活をだらだら続けてこの歳まできてしまったので、自分が歳をとったという自覚もあまりないのだけど、この映画の中西と絢を観ると、「若い」ということから自分がいかに遠ざかったのかということを自覚させられるのかもしれない。
例えば、絢が誰かと電話している場面が二度あるのだけど、ぼくはここで絢が実際に電話しているようにはどうしても見えない。死んでしまったか、あるいは絶交してしまった友人と、電話で話すというフリをして独り言として語りかけているようにしか見えない。絢という人は、そういう人のように思える。そして、そんな絢に対して、「絢ちゃんはいつもすっきりしていてうらやましい」と言ってしまう中西もまた、相当切羽詰っているのだろう(ツアー中にバンドから放り出されるというのは、相当キツイ状況だろう)。
そして、そのような切羽詰った若者に、だらーっと、緩く存在することのできる環境を与えているのが古賀という人物だと言える。古賀さんの主な仕事は、川からやってくる異界の者たちを管理するというより、切羽詰った若者たちに、緩くいられる時空を提供することの方なのではないか。古賀さんは、切羽詰った若者をいつでも受け入れられるように、そのよう領域が存続するようにそこを管理しているかのようだ。
絢の二度目の電話の場面。そして、古賀さんが石になった伊藤さんと親しげに喋っているのを押入れから中西が見ている場面。この二つの場面は、幸福な世界がもうすぐ終わってしまうことの兆候のようで、見ていて胸が締め付けられる。中西は、一方で古賀さんが大好きなのだけど、この世界と中西とを結び付けているのはやはり絢であり、古賀さんはこの領域の管理者であって、古賀さんや仲間たちとの関係は中西をこの場所へと留めることはできない。絢と中西の関係を恋愛と言ってしまうのが適当かどうか分からないが、二人の関係は非常に強く、この映画はその意味で思いのほか恋愛要素が強い。
そして、この映画の見事過ぎるくらいに見事なラストは、観客に感傷的な感情の余地を与えずに、作品世界をスパッと切断する。ナイステイクアウト。この世界から持ち帰ったピッツァと共に、中西はツアーをつづけるのだろう。このラストの潔さが、映画の幸福を作品の外にまで延長させる。
●core of bellsの短編は、複数のイメージの突飛で新鮮な組み合わせによる表現性と、人を説得し引きつける物語の定型とを、すごくバランスよく配合させていて、まるで全盛期のダウンタウンのコントのように面白い。表現としての切れのよさがあり、しかもちゃんとウケを狙ってもいる。やっていることの出鱈目さを「ウケ」として着地させるために「定型」を取り入れることを拒まない感じ。陳腐な言い方だけど、才能のある人たちなんだなあと思った。
●『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』は、上映が進むにつれてどんどんお客さんが増えているみたいだけど、このまま人気が膨らみつづけて全国に広がり、ついにアニメシリーズ化されることになったとしたら、この曲をオープニング曲にするのがいいのではないかと思った。
https://www.youtube.com/watch?v=JdozSBv02Uo
そして、エンディング曲はやはりこれだろうか。
https://www.youtube.com/watch?v=SXrdIUmLEv8