●永山ベルブホールで、『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』(黒川幸則)と『ジョギング渡り鳥』(鈴木卓爾)を観た(第26回映画祭 TAMA CINEMA FORUM)。映画二本と、プラス、トークとライブで五時間以上。
『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』をスクリーンで観るのは四回目なので、さすがに「あれ、こんなカットあったっけ」というのはないのだけど、この映画の夢のような感触は、様々な出来事が速いテンポで矢継ぎ早に起るのだけど、それが起承転結のような物語をつくらず、あるいは、個々の出来事の時間的展開に因果的関係性が薄いので、出来事の順番が憶えられなくて、映画を見ている時も、今、映画のどこらへんにいるのかが分からなくなるし、観終った後も、それぞれの場面の記憶があまり因果的につながっていなくて、この感じが「夢」っぽいのではないか。それと、あまりにあっけなくそして幸福な、終わり方のあざやかさも、目覚めの感じ(夢から最良の感じで目覚めた時の感じ)に似ているのかも。坂を上る「中ちゃん」の背後から自動車が迫るのを見て、あ、もう終わっちゃうじゃんと思い、この幸福な映画との別れを惜しむ余裕もなく、スパッと終わってしまう。
『ジョギング渡り鳥』も面白かった。通常、映画をつくっているところを撮る映画の場合、映画をつくっている人の物語と、つくられている映画の中の物語という、二つの層が出来るのだけど(「映画をつくっている人の物語」を実際につくっている人が映画の外にいるので、潜在的にはもう一層ある)、この映画では、多層構造にならないように、メタレベルをつくらないように、それらを一つの層につぶしているところが面白いのではないかと思った。映画によって生まれるフィクションと、映画をつくるという行為とが、表現の一つの層に畳み込まれる。
この映画には根拠の異なる三つのカメラがあって、一つは映画のカメラ、一つは宇宙人が人間を取材しているカメラ、一つは、登場人物たちが撮っているカメラ(スマホ)。この三つは、通常ならば、登場人物カメラ(フィクション)、宇宙人カメラ(フィクションのなかのメタ視点)、映画カメラ(メタ視点=フィクションの外の現実)という順序で階層が上位になっていく。しかしこの映画では、三つのカメラが相互に映り込んで混じっているので、階層構造にはならず、根拠の異なるカメラで撮られた映像が並列されていることになる。
実際には、根拠の異なる三つの映像を編集しているメタ的存在がいるのだけど、しかしそれもまた、この映画に映っている人たちであることになる。監督という責任者は存在するとしても、基本的に、エチュードを積み重ねてつくられたような映画で、登場人物と登場人物たちを取材している宇宙人(登場人物からは見えないが、観客には見える)が、おなじ俳優によって演じられている。そして、登場人物同士も互いを撮りあっている。つまり、エチュードを演じる俳優たちがお互いの演技を撮り合っているような形になる。そして、その外にいる「この映画」を撮っているスタッフもまた、宇宙人カメラには映り込む(フィクションの外でこの映画を監督している監督が、フィクションのなかで宇宙人を演じている俳優のもつカメラの映像に映り込んでいて、映画の一部となる)。演じることによってフィクションの次元が立ち上がることと、演じるという行為をすることと、それを撮影するという行為とが、表現の一つの層(一本の流れ)のなかに折りたたまれる。
言い方を変えると、フィクションの層と、その外で「この映画」をつくっている人たちの層とを、宇宙人のもつカメラが繋ぐことで、階層化されない三すくみの構造ができていると言える。宇宙人のカメラは、映画の中と映画の外との両方を写す。映画によって立ち上がるフィクションと、映画をつくるという行為とを一つの層へと畳み込むことを可能にする「宇宙人カメラ」を媒介として成立させているのは、演じている人たちが互いの演じている姿を撮りあうという行為だろう。演じている人たちが互いの「お演じること」を撮っているカメラが、その外から超越的に演じることを撮っている人たちをも写すことで、撮る者と撮られる者とを同じ層のなかへと巻き込んでしまう。それによってこの映画の構造が決定されている。そのような意味で「演じる人」が中心にある映画だといえると思う。
そして、この映画によって立ち上がるのは、ある意味とてもベタな(監督は「エモい」という言葉を使っていたが)人間ドラマだ。このベタな人間ドラマが、俳優たちによるエチュードの積み重ねによって生まれたのだとすれば、そのフィクションは、それを演じている人たち(の思考や感情や身体運動の傾向)を映し出していることになり、ここでもまた、演じることでたちあがるフィクションと、演じる行為と、それを演じる人とが、一つの層に畳み込まれる。
●『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』は、11月26日から12月2日まで、名古屋シネマテークで上映されます。
http://cineaste.jp/m/2600/2629.htm